ビートルズの食生活から学ぶ健康

ジョンの「プチ・ベジタリアン生活」と大腸がんリスクの関係

1977年、日本滞在時のジョン・レノン(右)とオノ・ヨーコ夫妻
1977年、日本滞在時のジョン・レノン(右)とオノ・ヨーコ夫妻(C)共同通信社

 ジョン・レノンの「主夫生活」時代(1975~80年)の暮らしぶりはあまり語られていません。

 ジョンとヨーコは身体浄化のためジュースだけの食事法を行ったり、心身のバランスを取るためのヨガや瞑想などを行ったりしていたようです。

 80年9月の「PLAYBOY」誌のインタビューでは、記者の質問に対して、普段はマクロビオテック(玄米菜食)の食事を取っているものの、時には家族でピザを食べにいくこともあると答えています。

 しかし通常は、魚と米、丸ごとの穀物、野菜だけを取るように努力していること、バランスを考えつつ、その土地固有の食べ物(マクロビオテックで教える「身土不二」=土地の旬の食品や伝統食こそ体に良いという考え方)を中心に取ることを心がけつつも、時にはベジタリアン食以外のレストランで食事を楽しむこともあったようです。

 いささか手前みそになりますが、この食のスタイルこそ、私が推奨する「健康的なプチ・ベジタリアン生活」そのものといえます。

 当時のジョン・レノンの生活ぶりをうかがわせる興味深い話があります。

「ミュージック・ライフ」誌の元編集長・星加ルミ子氏の記憶によるものですが、「ジョン・レノン その生と死と音楽と」(10年「文藝別冊」河出書房新社)で彼女は語っています。それによれば、77年、ジョン・レノン一家は日本に滞在しましたが、ニューヨークに帰る前日に行われたお別れパーティーでのこと。ジョンは以前よりもほっそりとしていましたが、こうコメントしたそうです。

「ヨーコは玄米がいいって言うから、言う通りにして玄米を食べ続けていたら、とても調子がいいんだ。僕はベジタリアンじゃないけど、玄米を食べて気持ちいいし、本当に体調がいいんだ」と。

 この席で、ジョンは一生懸命、みんなにお茶を入れたそうです。さらにヨーコが提案をします。

「ジョンはね、日本の食べ物の中で一番好きなのがうな重なの。みんな、うなぎを取って食べましょうね」

 彼女はフロントを通してうな重を注文し、みんなで食べたそうです。その時のジョンは、きちんと正座し、お箸を器用に使ってうなぎを食べたそうです。「まるで日本人みたいに静かで、ニコニコして穏やかで……」と星加氏は当時の様子を述懐しています。ジョン自身あるいは周囲の発言や記録などから、ジョンは玄米を中心とした和食にとてもなじんでいたことがうかがえます。

 昨2020年はジョン・レノンの生誕80年でしたが、もし彼が凶弾に倒れることなく、玄米菜食中心の食生活を送っていたらどうであったかと考えずにはいられません。大腸の専門医の立場から言わせてもらえば、少なくとも大腸の不調に悩むことはなかったと推測します。

 ちなみに、日本ではがん死のうち、大腸がんが女性では1位、男性が3位となっています。

 2011年に世界がん研究基金と米国がん研究協会の共同研究の中の「大腸がんのリスクとライフスタイル」では、赤身肉(牛、豚)および加工肉が大腸がんのリスク要因と指摘されています。その理由として、赤身肉には、脂質、特にコレステロールを上昇させる飽和脂肪酸が多く含まれているため、多量摂取は肥満につながり、大腸がんのリスクを高めるということが挙げられています。

 また、赤身肉に含まれる鉄分と脂質が活性酸素を産生し、その結果、細胞や組織の酸化、損傷を招き、大腸がんなどを引き起こすことになるのです。このコラムではすでに紹介していますが、米国がん研究協会では1日の赤身摂取量は80グラム以内としています。

 ジョンの玄米菜食中心の「プチ・ベジタリアン食」は、少なくとも大腸がんリスクは極めて低いものだったと言えそうです。

松生恒夫

松生恒夫

昭和30(1955)年、東京都出身。松生クリニック院長、医学博士。東京慈恵会医科大学卒。日本消化器内視鏡学会専門医・指導医。地中海式食生活、漢方療法、音楽療法などを診療に取り入れ、治療効果を上げている。近刊「ビートルズの食卓」(グスコー出版)のほか「『腸寿』で老いを防ぐ」(平凡社)、「寿命をのばしたかったら『便秘』を改善しなさい!」(海竜社)など著書多数。

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