最期は自宅で迎えたい 知っておきたいこと

地域医療連携が在宅医療患者と家族の不安を解消する

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 いま在宅医療では、「地域医療連携」というものを重視しています。これは、地域の医療状況に応じて、医療機能の分担と専門化を進めるもので、診療所や病院が相互に円滑な連携を図り補完しながら、それによりその地域の住民にとって必要で適切な医療を受けられるようにします。

 当院では、看護師と医療ソーシャルワーカーが、患者の退院時に行うカンファレンス(全体会議)に出席し、医療の内容、本人や家族の意向の確認、退院後のサービス内容についての情報共有やすり合わせを行います。

 例えば、酸素吸引が必要な方には酸素の機械を退院日までに自宅に届ける手配や、必要な物品や機材の確認、細かな調整を行い、もし不安材料を抱えるご家族がいれば相談にも乗ります。

 在宅診療開始後も、検査の必要があれば本人や家族が同行できる日程を調整し検査の予約をしたり、入院が必要になれば病院における地域医療連携の窓口と連絡を取り合い、情報提供書のやりとりをしたりもします。

 そんな地域医療連携が有効に機能したことで、在宅医療を始められたこんな例もありました。

 70代後半のがんを患う男性と人工透析に通う奥さまの2人のご家庭で、近隣には息子さんがお住まいでした。次第にご本人の体力が衰えだし、自力でのトイレや食事もままならなくなってきました。しかし、「在宅医療は奥さまをはじめ、さまざまな人に迷惑をかける」と、ご本人は入院を一時は選択。ですが自宅にいたいというお父さまの思いを酌んだ息子さんが当院の地域連携へ相談の電話。診療費や訪問の頻度、家でどんな治療ができるのかなどの説明を聞いて安心し、在宅医療を受けることになりました。

 それでも患者さんやご家族には不安がある。そこで役立つのが、「診療リポート」です。

 これは、私たち在宅医師が診療が終わるたびに、患者さんの体温や血圧などの医療情報だけでなく、患者さんとの会話内容も記録。さらには患者さんと心身の状態を把握し、その情報を関連するケアマネジャー、訪問看護、訪問薬局などの各事業所と共有するためのシステムです。

 ある患者さんが錠剤のお薬が飲めない、というような記述を確認した場合は、薬局から粉砕した状態の薬の処方の仕方が紹介されたり、投薬がおぼつかない患者さんには、「お薬カレンダー」の設置をするなどの提案をもらったりします。

 何よりこのリポートでは、つい見逃されがちなささいなことも拾い上げていけることがポイント。そんなちょっとした改善の積み重ねが、患者さんやその家族の自宅での過ごしやすさに直結しているのです。

 各ケアマネジャーさんからの診療所への電話連絡では、「毎度の報告がすごく助かりました」「先生が伴走されることで、ご本人、家族が迷いながらも、悔いのない最期が迎えられているご様子がこの診療リポートで伝わります」などの声が寄せられています。

 このようにこれからはますます、在宅医療にとってあらゆる意味で「連携」の重要性は高まっていくことでしょう。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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