がんと向き合い生きていく

がんと糖尿病、医師の“言葉”がなぜこうも違うのでしょう?

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

「大腸がんと糖尿病のことで相談したい」

 ある診療所に出向いたとき、そう希望するGさん(58歳・男性)が来院されました。その際、こんなお話をうかがいました。

 ◇  ◇  ◇ 

 先生、私は大腸がんがそんなに進んでいない段階で見つかって本当に良かったと思っています。やはり検診は必要ですね。「ステージ1」とまだ早い段階でしたので、内視鏡の治療で済みました。

 その後の抗がん剤治療は、担当の先生から「必要ない」と言われました。これからは、またがんが出てこないかどうかを定期的に検査してもらいます。大腸の内視鏡検査は嫌いだけどガマンします。検査そのものは嫌ではないですけど、下剤をいっぱい飲んで便を全部出すのがね……。それでも、おかげさまで元気だから感謝しています。嫌だなんて言わないで、次回も検査を受けます。担当の先生は優しく説明してくれますから。

 糖尿病の方は、3カ月ごとに病院で診てもらって、もう10年にもなります。ここのところコロナで外に出られない生活が続いていて少し太りました。先日、いつも通っている糖尿病科でこう言われました。

「HbA1cの値が悪すぎる。食事のことは、以前、教育入院した時に教わって分かっているでしょう? もっといい値になって病院に来なさい。値が悪くなったのはあなたが悪いんですよ。あなたの食事管理、食べ方が悪いのです。今度、奥さんも一緒に来てもらって、もう一度、栄養科でしっかり教わるようにされたらどうですか」

 なんだか本当に私は悪者扱いなのです。

 糖尿病科の先生にはこんなことは言えないですけど、「もっといい値になって病院に来なさいと言われても、いい値になったら病院に行かなくてもいいんじゃないですか? いい値になって病院に来なさいってのはおかしいですよ。いい値かどうかは、病院で調べてもらって初めて分かるのに」と思いましたよ。

 私は真面目に、ずっと真面目に正直に働いてきました。その分、そりゃあ若い時は体を酷使して無理もしました。いまでも暴飲・暴食はしないし真面目に生活していますが、ここのところは在宅での仕事になってしまって、毎日リズムに乗れないまま一日を過ごしている気がします。

 晩酌はおちょこ一杯だけ。頑張って痩せようとしているんですよ。この間、ネットで勉強して「BMI」というものを覚えました。体重(キログラム)÷身長(メートル)÷身長(メートル)の値で、「Body Mass Index 体格指数」っていうんだそうです。22くらいが最良で、25以上は肥満みたいです。私の体重は80キロ、身長が167センチですから、値は28から29くらい……もっと努力します。今年の目標は体重を70キロまで落としてBMIを25にしたいです。

 それにしても、がんと糖尿病では、どうしてこんなに先生からの言われ方が違うのでしょう? やっぱり、がんは自分自身ではどうしようもなくて、それで死ぬこともあるわけだから、先生は優しく話してくれるのでしょうね。糖尿病の先生の言葉は厳しくて、私の体のことを心配して言ってくれているのはわかるのですが、あんな言われ方をすると反感を持ちたくなります。

 糖尿病は血管が悪くなる病気で、心筋梗塞とか脳梗塞、腎臓病のもとにもなるんだって、それも教わって知っています。よく考えると、糖尿病が悪くなったのは通勤がなくなって毎日がテレワークになったからだと思っています。先生、私に何かアドバイスはありませんか?

 ◇  ◇  ◇ 

 私は答えました。

「できれば人のいないところを選んで、1日7000歩くらいは歩くことを勧めます。それで糖尿病の数値も良くなることが期待できるし、痩せると大腸がんのリスクも減るのですよ」

 Gさんは「そう言われると、たしかに昨日は400歩しか歩いていませんでした……」と振り返りました。

 Gさんに歩く習慣が身に付けば、糖尿病の担当医の言葉も変わるかもしれません。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

関連記事