最期は自宅で迎えたい 知っておきたいこと

在宅医療に不可欠な存在「ルートマネジャー」の役割は?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 私たち「あけぼの診療所」では、現在約500人の患者さんを在宅で診ています。1日の訪問数は約60人。疾患としては、全体の半分ががんで、そのほかは脳疾患や呼吸器疾患などの患者さんが多くを占めます。

 当院では1つのチームを「ライン」と呼んでおり、ほぼ毎日稼働しているのは5~6のライン。1ラインは、医師と、「診療パートナー」と呼ぶ看護師や言語聴覚士、理学療法士、作業療法士、救急救命士、管理栄養士、車の運転ができるバックオフィスの要員などのスタッフで構成されています。

 この中に、「ルートマネジャー」というスタッフがいます。他の業務と兼任となりますが、ルートマネジャーがいなければ在宅医療がうまく回らないと言っても過言ではないほど、在宅医療をする上で非常に重要な存在です。

 その仕事内容を具体的に紹介しましょう。基本的には訪問ルートの決定なのですが、これが実に複雑なのです。

 まず、患者さんの状態をトータルに把握し、ニーズに合わせながら効率良く回るためのルートを週替わりで考えなければなりません。その際、主要な幹線道路、裏道、道路事情、たとえば各患者さんの家の位置関係やその周辺の道路の混雑具合など、本当にさまざまな条件を総合的に考慮する必要があります。

 次に、患者さんは、人生の締めくくりが近づいている方、それまでは調子が良かったけれど2~3日前に急に調子が悪くなった方、またはお薬が合わず調整している方などさまざま。治療の難しい症例や時間がかかる症例なども。この患者さんには、どの専門知識のある医師が適しているか。患者さんの状態に合わせて“色分け(トリアージ)”しながら、医師との組み合わせやラインの振り分けも考えなくてはなりません。

 さらにルートマネジャーは、スタッフがご自宅に訪問する時間も管理しています。訪問看護さんの時間と重複しない時間帯、同席してもらった方がいい場合はその時間帯、ご家族がいる時間帯などです。

 患者さんにとってどんなキャラクターの医師がいいかを考慮するのも、ルートマネジャーの業務。

 患者さんの中には同性の先生がいいという方がいます。なるべく決まった医師に診てもらいたい方、逆にいろんな先生の意見を聞きたい方、診療パートナーが知る先生ならどなたでもいいよとおっしゃる方などもいます。

 また、比較的落ち着いている方やそうじゃない方、論理的な話し方を好む患者さん、逆にたくさん雑談をしながらふんわりと事柄を聞きたい患者さんなども……。こういった患者さんのパーソナリティーに注意を払い、それに合わせたコミュニケーションの仕方を訪問スタッフにアドバイスし、患者さんとの意思疎通に齟齬がないようにするのも、ルートマネジャーなのです。

 このように在宅医療は、医療だけでなく、多種多様なスペシャリストに支えられ、成り立っているのです。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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