最期は自宅で迎えたい 知っておきたいこと

「地域連携」スタッフが在宅医療開始前の不安や悩みを解消

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 在宅医療を下支えするさまざまな職種の中に「地域連携」という名のスタッフがいます。

 患者さんが退院し、在宅医療を開始する時に、患者さんや家族に直接会い、要望を聞いたり不安を解消したりしながら、在宅医療へスムーズに移行できるようにする仕事です。患者さんと会う前には、ケアマネジャーと連絡を取り、患者さんの情報を仕入れ、面接の準備を整えます。

 だから患者さんは、「自分のことを知ってくれている人が来てくれた」という安心感を持ってくれる。それが、ひいてはほかの在宅医療のスタッフも、患者さんやご家族に受け入れてもらえることにつながります。

 しかし、いざ在宅医療が始まると、この「地域連携」は、患者さん側と直接話したりすることはなくなります。今度は現場の診療パートナーや医師からの連絡を受け、病院や施設、ケアマネジャーなどの各事業所との調整をするといった裏方に徹するのです。

 そのため、「地域連携」のスタッフは、病院や在宅医療、各事業所が、どういう働きをしているのかを熟知していないと務まりません。当院でも包括的に経験値やスキルの高いベテランスタッフが担うことが少なくありません。

 そんな当医院で働くベテラン「地域連携」のスタッフに、仕事をする上で常日頃心掛けていることを聞いてみると、こんな回答でした。

「患者さんが病院から自宅に帰るにあたって、不安に思っていることが何かを、注意して聞くようにしています」「その患者さんやご家族の方が聞きたいことを正しく受け止め、ちゃんと答える。そして、なぜその質問をしているのかを考え、患者さんがする質問の裏に潜む不安を察知しながら、その隠れた不安も取り除けるような返答をする」――。

 ある意味、「地域連携」は、在宅医療を始める患者さんの心を事前に整える仕事といえます。そのためにも「地域連携」にあたるスタッフは、診療所で何ができて、何ができないかをはっきり理解することが大事。たとえばレントゲンだけは機材がないからできないけれど、それ以外はすべてできると言い切れる。その自信が患者さんに与える意味は大きいのです。

 ある60代後半の女性は、特発性肺線維症、慢性呼吸不全、そして肺にカビの一種がすみ着き喀血する慢性肺アスペルギルス症を患っていました。退院し、在宅医療に移行された当初は自宅で過ごす不安を抱えていたそうですが、「なんとでもなります。当院で大丈夫!」という「地域連携」の力強い態度と言葉に、「どれほど気持ちの面で安心感があったことか」と言っていました。当初は扱いにくく、使用を躊躇した人工呼吸器も、ご家族が試行錯誤し使いこなすまでになりました。

 まさに「地域連携」のやる気が患者さん側を感化したのかもしれません。夏に始まった在宅医療も、はや半年が過ぎて今でも元気に過ごしています。今年の春にはご家族と一緒に桜を楽しまれたということです。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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