テキサス州で人工妊娠中絶の事実上の全面禁止となる厳しい法律が成立し、全米で大論争となっています。
「ハートビート法」と呼ばれる法律は胎児の心音が探知できた場合、つまり妊娠約6週間以降の中絶が違法となるものです。多くの女性はこの時期に妊娠を自覚できないこと、さらにレイプやインセストによる妊娠も含まれることで事実上の全面禁止と考えられています。これまでで最も厳しいだけでなく、「州民なら誰でも施術した医師や施設のスタッフを訴えることができる」という、州民が州民を取り締まる仕組みにも驚きの声が上がっています。
中絶反対派は「生まれてこられるはずの赤ちゃんを守るのは社会の役目」とこの法律を歓迎する一方で、中絶賛成派は「女性の人生や健康を傷つけるもの」と反発を強めています。
アメリカでは、人工妊娠中絶は1973年に連邦最高裁で合法とされて以降、反対の保守派と賛成のリベラル派との間で常に政治案件とされてきましたが、21世紀に入ると徐々に形骸化していきました。ところが2016年の大統領選でトランプ氏が罰則を含む厳しい中絶禁止法を公約したことで追い風に乗り、共和党が優勢な12州で中絶や避妊を制限する法律が成立して、政治的分断の大きな要因となっています。
中でも大きな論争になっているのは、妊娠15週以降の中絶を禁止したミシシッピ州の法律を、最高裁が合憲か否かを審議すると決めたことです。トランプ氏の3人の保守判事指名により保守とリベラル判事の比率が6対3となった今、中絶禁止が国として合憲とされる可能性は高く、そうなれば全米の保守州で中絶が一切できなくなる可能性があります。
その審議は今年の秋に行われる予定ですが、今回のテキサス州法が提訴され最高裁まで行った場合は、可否の決定が来年にずれ込むとみられ、このままいくと人工妊娠中絶は2022年、中間選挙の最大の争点のひとつともなると予想されています。
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