最期は自宅で迎えたい 知っておきたいこと

最初は“他人”が自宅へ来ることに戸惑っていた患者さんが…

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 初めて在宅医療を受けた患者さんやご家族にとって戸惑うのは、それまで見知らぬ他人だった在宅医療スタッフが、ほぼ毎日のように自宅に訪れること。

 そんな患者さんやご家族の方とコミュニケーションをしっかりと取って不安や疑問を解決し、信頼関係をつくることも、私たち在宅医療スタッフの大切な仕事です。

 80代後半で奥さまと2人暮らしの膀胱がん末期の患者さんがいました。都内の自宅近くのマンションには息子さんが住んでおり、関西に住む娘さんが時折見舞いに訪れるという状況で、入院から在宅医療に切り替えたのでした。

 当初、奥さま、息子さん、娘さんは、訪問リハビリや訪問看護の区別もつかず、そもそもその必要性すら感じていなかったのでしょう。自宅に毎日見知らぬ在宅医療スタッフが訪れることに、ストレスを感じていたご様子でした。

 しかし、日が経つにつれて私たちの役割を理解していただき、やがてはご家族と、訪問看護スタッフ、在宅医療スタッフが一丸となって患者さんを支えながら、最期の時を迎えました。在宅医療を開始して、5カ月目のことでした。

 しばらくして、娘さんからお手紙を頂きました。抜粋して紹介したいと思います。

(以下お手紙の抜粋)

「私と両親とは離れた地で暮らしていますので、当初、父を自宅で介護・看病して看取るということはとても不安でした。一番近くにいる母も高齢で、父が退院してきた頃は痛みで動くことも歩くこともできない状況でした。そんな父と頼りない母を置いて関西に戻るたびに不安と罪悪感とでいっぱいでした。

 当時は正直なところ、GWを迎えられるかどうかと感じていました。しかし次に父と会った時、驚いたことに父が歩行器で歩いていたのです。その後は杖で。まさか、そんな父にもう一度会えるとは思ってもおりませんでした。

 コロナ前のまだ賑やかな銀座の歩行者天国を、車椅子の父と母と散歩し、父の行きつけの中華料理を食べられたあの日は、本当にうれしい一日でした。春には桜を見ることもできました。亡くなる数日前はつらそうにしていましたが、なぜか亡くなる1時間前には母と私と3人で穏やかに笑って過ごせていました。

 父の家で最後の時を迎えるという希望がかなえられ、母も家族みんなも、納得できる時を過ごせたのではないかと思っています。

 先生や看護師さんスタッフさんを『今日はあけぼのさんの日か~、じゃあお風呂に入ろう』と父はいつも楽しみに待っていました。また何かあればいつでも電話してくださいと何回も母に言っていただき、とても心強く思っていたと思います。母は、以前は自分は老人ホームに入居すると言っていましたが、今では先生にお世話になる気満々でおります。その際はまたよろしくお願い致しますね」

 在宅医療で患者さんとご家族が安心して過ごせることが、私たちスタッフ全員の願いです。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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