がんと向き合い生きていく

コロナ禍の巣ごもりで同居人からの受動喫煙が増えている

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 新型コロナウイルスの感染は人の移動で増加します。緊急事態宣言、まん延防止等重点措置を延々と繰り返し、不要不急の外出をしないように、3密を避けるように、そして自宅でのテレワークが推進されても、毎日のコロナ感染者数や死亡者数が増えています。

 国民は“外”ではお酒を飲めず、自粛、自粛……。しかし、一方では政治家による資金集めのパーティーがあったり、延期か中止の意見が多かった東京五輪が開催されました。批判を浴びた政府は起死回生のためにワクチン、ワクチンと言ってきましたが、ここへきてそれが足りない? その在庫管理すらできていないことに、また腹が立ち、ストレスになって、国民のイライラは頂点に達しています。

 そんなイライラは、同居者の受動喫煙が増えたことにも表れています。今年5月、国立がん研究センターは、「たばこを吸う同居人からの受動喫煙が増えた」と答えた人が33・7%にも上ったとする調査結果を発表しました。受動喫煙とは、たばこを吸う人ではなく、その周りの人がたばこの煙を吸い込むことをいいます。

 日本国内では、たばこを吸わないのに受動喫煙の影響で年間1万5000人が亡くなっているのです。

 たばことの因果関係が明らかになっているがんは肺がんだけではなく、頭頚部、食道、胃、さらには肝臓、膵臓、膀胱、子宮頚部のがんなど、たくさんあります。また、たばこが原因となる病気はがんだけではありません。脳卒中や心筋梗塞なども該当します。コロナ禍での受動喫煙で病気が増えたら、踏んだり蹴ったりとは、このことではないかと思うのです。

■コロナ禍を契機に

 2010年、IOC(国際オリンピック委員会)とWHO(世界保健機関)は「たばこのない五輪の推進」で合意し、その後、五輪開催都市だったロンドンとリオデジャネイロでは飲食店などの屋内全面禁煙が実現しました。そして、「その禁煙による飲食店の客離れはなかった」とする調査もあります。

 日本では、東京五輪の開催予定に合わせて昨年4月から健康増進法が改正され、屋内原則禁煙、喫煙専用室の設置などが決められました。しかし、それでも多くの医師は「これでは禁煙にとても消極的で情けない」と反対していたのです。もちろん、まずは禁煙が大切ですが、受動喫煙の機会を減らすことも必要です。東京都がん対策推進計画(2次改定、18年3月改定)では、目標値を「受動喫煙の機会をなくす」としました。

 たとえ分煙しても、たばこの臭いを嗅ぐだけで健康被害を受けます。マンションのベランダで喫煙されている方を見ることがあります。おそらく、同居する家族に受動喫煙を指摘されての行動でしょう。しかし、まとわりついた煙は容易にはなくなりません。喫煙後45分間はエレベーターに乗ることはできないと決めている役所もあります。

 コロナ感染症の重症化リスクに喫煙者も挙げられます。コロナ感染症は、肺炎だけでなく、全身に病気を起こします。死を免れても、後遺症が残る方が多くおられるのです。

 ですから喫煙者の方は、もうここで覚悟するしかありません。コロナ禍を契機に禁煙しましょう。このコロナ禍を利点に転ずるとすれば、それしかないと考えます。

 これまで何度も禁煙を試みて繰り返している方も、いまが最後、絶好のチャンスだと思って禁煙しましょう。ひとりで決心するのが難しい方は病院の禁煙外来に行ってみるのもひとつの手です。

 コロナ禍で、日本国中、みんなみんなストレスの毎日で、さらにたばこを吸いたくなる……。しかし、ここがチャンスなのです。

 自分のため、周りのみなさんのため、たばこをやめましょう。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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