科学が証明!ストレス解消法

幸福感に与える影響力は「所得」よりも「自己決定」の方が大きい

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 中国後漢の時代に編纂された「漢書」に出てくる言葉に、「朝令暮改」があります。朝、口にしていたことが夕方にはコロッと変わっている――。一聴すると悪いイメージを抱くかもしれません。しかし、朝令暮改はストレスを軽減する上で、意外にも有効な手段であると、科学は教えてくれます。

 経済産業研究所の西村氏と同志社大学の八木氏が、国内2万人に対するアンケート調査(2018年)を行った結果、「所得や学歴よりも“自己決定”が幸福感に強い影響を与える」と分かりました。アンケートでは、全国の20歳以上70歳未満の男女を対象に、所得、学歴、自己決定、健康、人間関係の5つがいかに幸福感と相関するかを分析しました。

 その結果、幸福感に与える影響力は、「健康>人間関係>自己決定>所得>学歴」の順であると明らかになったのです。所得は、増加するにつれて幸福度も比例する傾向が見られたのですが、1100万円が一つの天井であることも分かりました。むしろ、重視すべきは健康、人間関係、自己決定というわけです。

 とりわけ興味深いのは、自己決定です。自己決定によって進路を決定した人は、成果に対する努力を惜しまないため、責任や誇りを持ちやすく、達成したことによる幸福感も高い。これは、小さな自己決定においても同様です。

 例えば、今から取りかかろうとしていたのに、「早く仕事をしなさい」などと上司から言われ、やる気を奪われた……。そんな経験を持つ人は多いのではないでしょうか? 人間は、生来的に自分の行動や選択を自分で決めたいという欲求が備わっています。しかし、それを強制されたり奪われたりすると、自分にとってプラスの提案であっても無意識に反発的な行動を取ってしまいます。こういった現象を、心理的リアクタンスと呼びます。

 料理を作っているときに、横から「もうちょっと塩コショウを入れたほうがいい」とか「ゆで過ぎじゃない?」などと言われると、料理を作りたくなくなるのも心理的リアクタンスによるものです。対照的に、自分一人で好きなように作ると、たとえ味が微妙であっても「私って料理上手かも!」という具合に、達成感や満足感が得られやすい。まさに心理的リアクタンスと自己決定の違いです。裏を返せば、心理的リアクタンスが起こる前に、「自分でこのチョイスをしたんだ」と考えられれば幸福度を上げることができるのです。

 運ばれてきた料理を見て、「想像していたのとは違う」と思って食べるよりも、「想像していなかった料理が来たけど、私はこれと巡り合うためにチョイスしたんだろうな」と思って食べた方が、幸福度は雲泥の差となります。

 心理的リアクタンスを回避するために、積極的に朝令暮改をし、自分の意思決定として上書きしていく――。自己決定として考えることが、過度にストレスをため込まない軽減術のポイントですよ。


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堀田秀吾

堀田秀吾

1968年生まれ。言語学や法学に加え、社会心理学、脳科学の分野にも明るく、多角的な研究を展開。著書に「図解ストレス解消大全」(SBクリエイティブ)など。

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