最期は自宅で迎えたい 知っておきたいこと

患者さんの生活を丸ごと面倒見たい…スタッフに求められる気持ち

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 在宅診療のスタッフに求められる資質、それはズバリ「患者さんの生活すべてを丸ごと面倒見たい」という気持ちです。

 当院では今年1月から8月末までにのべ56回にわたって求人希望者の面接を行ってきましたが、その時に必ず聞くのが「なぜ在宅医療を選んだのか」ということです。

 医師であれば、病院での勤務の中で感じた限界や、病院と在宅医療両方を経験することで患者さんを包括的に支えられるという思いを持つ先生もいらっしゃいます。また医療従事者や事務スタッフであれば、家族や身近な人との経験の中で感じたことを動機理由として話していただける方も。

 私たちが大事にしているのは、本や記事で見た言葉でなく、自分の体験を具体的に、自分の言葉で語れるか。大前提として「自宅だからこそ、患者さんが自分らしく過ごせる」という価値観を共有しているか。その価値観のもとに「そのためなら何でもやる」という姿勢を持っているか。これらを見極めるようにしています。

 病院や企業での縦割りの仕事の仕方に慣れている人は、そういった我々の働き方に戸惑う方も少なくありません。

 こんな患者さんがいました。生活保護を受ける独居の76歳の男性で、歩行障害により外来で治療を受けていたのですが、脱水症で左片麻痺。痛風発作も繰り返し、やがては外来通院困難となり在宅医療をスタートさせたのでした。

 そんなある日、本人から熱中症かもしれないとの連絡がありました。部屋にはクーラーがなく、設置を勧めても、自身で費用を捻出するのは困難とのこと。そこでケースワーカーとも相談し、福祉の貸付金制度を利用。足りない金額は当院で分割払いの対応をすることにして、設置は当院のスタッフが行いました。

 診療所がそこまでする必要があるのかと思うかもしれません。でも熱中症で倒れて、救急車を呼んで点滴をすれば、それで病床が埋まり、結果として限られた医療資源を使うことになります。

 その後、患者さんの声がスタッフを通じて届いてきました。

「本当にありがとうございます。これで地獄のような暑い夏を生き抜いていけます。この前は大家さんもお見舞いに来てくれたんだよ。もっと長生きしなきゃね。本当にありがとうございます」

 これまでも「どのような患者さんでも断りません」とうたってきましたが、実際に開院以来、一度も患者さんを断っていません。

 それを可能にするためにも、私の仕事はここまで、なんて言っていられないのです。知らないからできませんもなしです。知らなければ調べて、調べても分からなければ知っている人に聞く。患者さんの生活を丸ごと支えるためにできることや、考えられることをする。それが在宅医療で働くスタッフに求められるスキルなのです。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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