上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

肥満を防いで「見た目」が若くなれば健康寿命が延びる

天野篤氏
天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 これまでも何度かお話ししましたが、「見た目=外見」が年齢より若く見える高齢者は、健康的に人生を全うできるケースが多いと感じています。科学的にたしかな根拠があるわけではありませんが、これまで多くの患者さんと接してきた経験から、そんな印象を受けるのです。

 前回、肥満は脂質異常症、高血圧、糖尿病のリスクを高め、心臓疾患を発症しやすくなるとお話ししました。こうした生活習慣病は、高齢になった時に寿命と健康寿命の「差」になって表れます。寝たきりや要介護状態といった生活に制限を受けずに実年齢と差がないまま天寿を全うするには、高齢になる前から肥満を招かないような生活習慣を心がけることが大切なのです。

 肥満は、冒頭で触れた「見た目」にも大きく影響します。好きなものを好きな時に好きなだけ食べるといったように、自己の欲求を優先させてコンディションを犠牲にする生活を送っていると、70代くらいまでは何とか大きなトラブルはなく過ごせても、80歳近くなると若々しくシャキシャキとした振る舞いをするのは難しくなるといえます。

 年を取るにしたがってヨボヨボしはじめ、いかにも「老人」といった見た目や行動になってくるのです。そうなると、心臓など体のあちこちに大きな問題が起こりやすくなります。

 いまは「人生100年時代」と言われます。80歳になっても人生はあと20年続くわけですから、健康寿命を延ばし、生活に制限がある状態で過ごす期間をできるだけ短くすることが大切です。

 そのために、まず意識したいのが肥満や生活習慣病を防ぐ食事です。好きなものを好きなだけ食べるのではなく、栄養バランスの良い食事を取るようにする。それには、昔から健康的な食事の基本とされている「一汁三菜」を心がけましょう。ご飯、汁物、3種類のおかずによって構成された献立のことで、理想的な栄養バランスだといわれています。「主食」(ご飯、パン、麺類)・「主菜」(肉、魚、卵、大豆製品)・「副菜」(野菜、キノコ、海藻類)を偏りなく取ることが、肥満を防いで健康寿命を延ばすことにつながります。

 近年、話題になっている極端な糖質制限ダイエットは高齢者では筋肉を減少させる場合があるので、危険な栄養制限になります。

■抗れになっても前向きな気持ちで生きられる

 加えて、ウオーキングやラジオ体操などの有酸素運動を日々の習慣にすることも肥満や生活習慣病を予防します。厚労省によると、「1回30分以上の運動を週2回以上実施し、1年以上継続している者」を運動習慣のある者としているので、少しずつでも続けることが大切です。

 このように、食事と運動についてある程度管理した生活を75歳くらいまで過ごすことにプラスして、予定や行動スケジュールの管理を手帳などを活用して自分自身で把握するような生活を送っていると、それ以降の生活の質は間違いなく向上します。そうなれば、「見た目の年齢が若返るような生き方」ができるようになります。

 高齢になっても不自由なく外を出歩け、目的が明らかになっていることで頭を使うため、周囲とのコミュニケーションが増え、食べ物、ファッション、音楽、書物、映像など、新しいものへの興味も生まれます。気持ちの刺激になるため若返りにつながり、見た目も若くなってきます。

 高齢になると、なおさらストレスが体にも悪影響を与えるので、好きなものを食べたり、やりたいことをやる生活にシフトするといいでしょう。これができている人は、いくつになっても自分が年を取ったということを意識していなかったり、認めていません。それが、見た目の若さと元気の源になっているといえます。

 食事をおいしく食べられる、不自由なく手足が動かせる、しっかり目が見えるし耳も聞こえる。五感をしっかり維持できれば、見た目も若くなり、健康寿命を謳歌できます。そのためには、常にオープンな気持ちで、前向きな興味を持って生活することが大切です。そして、そうした生き方を目指すには、若い頃から肥満や生活習慣病を防ぐことを心がけ、食事と運動と行動予定を自己管理していく意識が必要なのです。

 100歳で亡くなる時、周囲から「まだ70代かと思っていた」と言われるよう生きていく。これが人生100年時代を楽しむために目指すべき生き方だと思うのです。

■本コラム書籍化第2弾「若さは心臓から築く」(講談社ビーシー)発売中

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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