進化する糖尿病治療法

糖尿病の治療薬そのものが認知症対策に役立つ可能性あり

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 糖尿病の合併症のひとつに認知症があります。糖尿病の人は、そうでない人と比べてアルツハイマー型認知症に約1.5倍なりやすく、脳梗塞や脳出血など脳の血管障害で起こる脳血管性認知症に約2.5倍なりやすいという報告があります。

 また、糖尿病で低血糖を起こすと、認知症のリスクが高くなるといわれています。糖尿病の人が認知症になると、薬の飲み忘れ、食事内容の偏り、運動量減少などが起こりやすく、糖尿病の悪化を招くことにもなります。

 ですから、認知症対策のためにも、早い段階から糖尿病治療に取り組んでほしいのですが、一方で、糖尿病の薬そのものが認知症対策に役立つのではないかという研究結果も発表されています。

 韓国の延世大学校医科大学はDPP-4阻害薬に関する研究を実施。DPP-4阻害薬は、食後の血糖値が上昇しそうになった時だけインスリンの分泌を促進させる薬で、単剤使用で低血糖が起こりにくく、体重増加も起こりにくいという利点があります。

 日本で多く処方されている糖尿病治療薬になります。

 研究では、記憶力や思考力の障害を感じ、受診した平均76歳の男女282人が参加。全員が研究開始時の認知テストで同様のスコアを示しており、282人中70人が糖尿病でDPP-4阻害薬の治療中、71人が糖尿病だけど薬物治療を受けておらず、141人は糖尿病ではありませんでした。

■DPP-4阻害薬服用者は認知機能の低下が遅かった

 参加者全員が認知症が疑われる時に行われる検査「MMSE(ミニメンタルステート検査)」を12カ月ごとに2.5年間受けたところ、DPP-4阻害薬を服用していた群は平均0.87ポイントの低下でしたが、服用していなかった群は同1.65ポイント低下、糖尿病でない群では同1.48ポイント低下でした。

 さらに、検査に影響を与える可能性のある要因を調整すると、DPP-4阻害薬を服用していた患者は、認知機能の低下が年間0.77ポイント遅くなるとの結果でした。

 また、アルツハイマー型認知症の原因になる物質「アミロイドβ」がDPP-4阻害薬を服用していた患者では少なかったことも、この研究で明らかになりました。

 研究者は、今後、より精度の高いランダム化比較試験が必要としながらも、「糖尿病患者の高血糖状態が続くと、脳内のアミロイドβの蓄積によって、アルツハイマー型認知症のリスクが高くなると考えられる」「研究では、アミロイドβが少ないだけでなく、アルツハイマー型認知症に関連する脳の領域でも低いレベルが示された」とコメントしています。

 糖尿病と認知症の関連については、メトホルミンという薬も認知症対策に有効なのではないかと期待されています。

 研究を行ったのは、オーストラリアのガーバン医学研究所の研究者です。70~90歳の高齢者1037人を6年間追跡。調査開始時は全員、自宅で生活しており、認知症の兆候はありませんでした。

 1037人のうち、123人が糖尿病で、67人がメトホルミンを服用。6年間の研究期間中、2年ごとに認知機能テストが実施され、メトホルミンを服用していた糖尿病患者は、服用していない患者に比べて認知機能の低下が遅く、認知症のリスクが低いことがわかりました。さらに、メトホルミン服用の糖尿病患者は、糖尿病でない人に比べても認知機能の低下が6年間で差がなかったのです。

 とはいえ、DPP-4阻害薬もメトホルミンも、あくまでも臨床研究の結果。

 糖尿病の薬は、患者さんの症状や年齢などに応じて最適なものが選ばれているので、「認知症対策のために別の薬に替える」ということはできません。

 しかし、薬も漫然と続けるだけのものではなく、適宜、見直しが必要です。そのきっかけにも主治医に相談してみるのも手かもしれません。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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