みんなの眼科教室 教えて清澤先生

ビタミンA不足は夜盲症、B1不足だと角膜や結膜に変化が起きる

栄養が偏らないように
栄養が偏らないように

【Q】年のせいか、食欲がわかないうえ、年金生活なのでぜいたくもできず自分でも食事が偏っている気がします。楽しみはテレビくらいなので眼が悪くなると困ります。大丈夫でしょうか?(72歳・男性)

【A】眼の健康の維持には様々な栄養素が必要です。ところが国民の経済状態が比較的良くなった現代でも、酒のつまみだけを食べているとか、インスタントラーメンばかりといった偏った食事を摂取している人がいます。そのような人では特定の栄養素欠乏による重い目の病気がみられることがあります。

 たとえば、ビタミンAの不足は夜盲症や眼球乾燥症などを起こします。夜盲症は江戸時代から「鳥目」とも呼ばれていました。薄暗い所で目が見えないという症状です。

 典型的な夜盲症は遺伝性の網膜色素変性症で見られるのですが、普通の人でもビタミンA不足で起きるケースがあることが知られています。網膜の視細胞には視物質と呼ばれる色素が含まれていて、その前駆物質がビタミンAであるため、ビタミンA欠乏が暗いところで目が良く見えないという症状につながるのです。

 眼球乾燥症は単なるドライアイではなく、眼表面の病的変化です。私は研修医時代に、はしかにかかった子供が油断ちの食事制限をされて角膜穿孔に至ったという例を見た事があります。

 ルテインやゼアキサンチンは黄緑色野菜などに含まれる栄養素です。これがサプリメントとして黄斑変性の予防に推奨されています。網膜の中心部分は黄色い色素を多く持っていて、その維持にルテインなどが必要とされています。

 ビタミンB1(チアミン)不足は、目に角膜や結膜の変化を起こすことが知られています。ビタミンB1が極度に不足すると末梢神経障害や心不全が起きてしまい、全身の倦怠感、食欲不振、手足のしびれやむくみなどの症状も出ます。これが「脚気」で、ビタミンB1不足は胚芽を除いて精米した白米を食べるようになったことがその欠乏の歴史的な原因でした。

 そのことに気が付いた明治時代の日本陸軍は、脚気予防に副食代を支給しましたが、兵隊はその金をおかず購入には使わず家族への仕送りに使ったため、さらに多くの命が失われたといわれています。

 ビタミンB2(リボフラビン)は抗酸化物質で眼を含む体の酸化ストレスを減らす可能性があります。リボフラビン欠乏は舌炎、口角炎、そして眼瞼の落屑性皮膚炎と、輪部周辺の血管増生を伴う角膜炎を示すことが記録されています。

 青森県では1960年ごろに「しびがっちゃき病」という奇妙な名称の風土病がビタミンB2欠乏症として報告されています。「シビ」とは皮膚が荒れ亀裂を生ずる状態をいい、「ガッチャキ」とは肛門や陰部の痒みのことだったそうです。

 ビタミンCはコラーゲンを形成し、白内障防止に必要です。ビタミンCを含む果物を食べ白内障の発生を予防しましょう。 

 眼に関連した栄養素はこればかりではありません。さまざまな栄養素が目の健康には必要であり、眼の健康に役立つサプリメントとしても投与されています。心配なら一度近くの眼科医院でご相談なさるとよいでしょう。

清澤源弘

清澤源弘

1953年、長野県生まれ。東北大学医学部卒、同大学院修了。86年、仏原子力庁、翌年に米ペンシルベニア大学並びにウイリス眼科病院に留学。92年、東京医科歯科大眼科助教授。2005-2021年清澤眼科院長。2021年11月自由が丘清澤眼科を新たに開院。日本眼科学会専門医、日本眼科医会学術部委員、日本神経眼科学会名誉会員など。

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