最期は自宅で迎えたい 知っておきたいこと

「いま死ぬわけにはいかない」小さな子を持つ余命半年の患者に言われ…

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 私が「在宅医療」による訪問診療を志すようになったきっかけは、かれこれ10年ほど前、ある病院に循環器内科医として勤務していた頃に、入院する患者さんは、どうして治療も検査もない時も寝ているだけなのに入院しているのかという素朴な疑問を持ったことに始まります。

 その当時の私は、循環器内科医として何事も極めたいと考え、日々邁進していました。心臓カテーテル治療とカテーテル室の運営、冠動脈CT、心臓心筋MRI、各医学検査、そのほかにもレセプト(保険診療に基づく医療報酬の明細書)の対策委員会などで、忙殺される毎日でした。

 そんな中で浮かんだ素朴な疑問は、私の中で次第に大きくなっていきました。そしてそこから、患者さんが私たちの医療を受けた時にいかに「良かった、楽になった」と思ってもらえるのか、またはどういう部分に不満があるのかといった視点を持つようになっていきました。

 すると院内で回診していると、入院したくない、早く退院したい、こんな診療なら家でもできるんじゃないかという不満を口にする患者さんが少なくないことにも気付くようになるのです。

 患者さんのそんな言葉に、当時の私は「一生懸命に病院の仕事をしているのに早く帰りたいというのは何事だ」とすら思っていましたが、いまでは逆に、病院でしかできない医療って何か、そして「在宅医療」では何ができるのかと考えるようになりました。

「在宅医療」では病院と変わらず、薬や道具を準備して医療を行える。さらにそれが保険医療で行えれば、病院の医療を在宅に置き換えることはできる。しかもそのことを患者さん側が強く望んでいて、医療スタッフも納得しているのなら、病院ではなく在宅で療養するのが一番なのでは……。そう確信するようになっていくのでした。

 小さいお子さんのいる40代の女性の患者さんがいました。その方は子宮がんを患い、余命6カ月の宣告を受けてから病院で2カ月過ごした後に、「早くお母さんに会いたい」というお子さんのために在宅医療に切り替えました。

「先生、いま死ぬわけにはいかないんです」と入院当初、切実に訴えられたその患者さんと、「お母さん帰ってきて良かった。まだ病気が治ってないから寝ているの? 僕と一緒に寝たら早く治るかな」というお子さんの言葉に胸が締め付けられました。

 私たちは病院医師と相談して、使用して問題のない化学療法を続けながら、少しでも元気で良い状態で家族と残された時間を過ごせるよう支援しました。

 訪問のたびに患者さんとご家族は笑顔で過ごしていらっしゃったのが印象的でした。

 やがてこうして患者さんは4カ月後に旅立たれていかれました。

 病気というのは理不尽なものです。それに一生懸命立ち向かう患者さんたちを支え手助けすることが少しでもできる。それが一人一人の生活と共にある「熱心な在宅医療」であると確信しています。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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