毎年年末になると患者さんやそのご家族から、「年末年始も訪問してもらえるのですか?」といった質問をよく頂きます。
当たり前のことですが、病気にお休みはありません。安定している患者さんであれば、その間はお休みにしたりすることもあります。しかし、特に当院では医療依存度が高い患者さんが多いため、基本的に年末年始やGWなどの大型連休であっても、日常と変わらず訪問診療を実施しています。
むしろ、そういった柔軟な体制が、患者さんやご家族の安心感につながり、私たちとの信頼を醸成していると信じています。
とはいえ、薬局などはお休みになることが多く、そのために、例えばいつもは2週に1回の処方が、年末は3週分の処方になったりします。ただし、痛みを抑える医療用の麻薬などは、急に必要になることがありますから、年末年始も緊急対応してくれる薬局さんと連携するなどして、患者さんを支える体制を構築しています。
また、訪問看護師さんも同じで毎日の食事や服薬管理、点滴の管理などをしている患者さんには、年末年始も変わらず入ってもらえる訪問看護ステーションさんにお願いし、切れ目なく在宅療養を支えています。
年末年始といえば、以前こんな患者さんがいらっしゃいました。
その患者さんは96歳の元銀行員の男性で、奥さまと2人暮らし。
お正月に玄関で倒れ、私たちが駆け付け、低体温症ショックと診断。病院へいったんは救急搬送しましたが、病院で過ごすより自宅で過ごしたいという患者さんの希望により、1月末には退院。そこから在宅医療がスタートしました。
自宅に戻られてからは、ほぼ寝たきりとなりましたが、療養中、明るくおしゃべり好きの奥さまや娘さんの献身的な介護に加え、訪問看護師さんも毎日介入して、時に笑いも起こる、なんとも賑やかな日々。そうして、その年の5月には旅立たれていかれたのでした。
療養中には患者さんの最期をどこで迎えるか、自宅で最期の日を迎えるための備え、そのために、ご自宅でどう生活をしていくかといったことを、病院の医師、ケアマネジャーさん、当院で話し合いを重ねていきました。介護の中心にいる娘さんをはじめ、ご家族に納得してもらいながら、一つ一つ丁寧に決め、在宅医療を行っていったのでした。旅立ちの日から半年余り経って、娘さんとお電話でお話をする機会があり、その時にこんなことを伺いました。
「父が倒れたときは、元日にもかかわらず来ていただいて、先生、本当にありがとうございました。元日だったのが懐かしいです。父が逝ってから半年が経ちますが、自宅でこうやって穏やかに見送ることができて本当によかったと思っています」
こういった言葉を頂くたびに、在宅医療に正解は一つだけではない、そのやり方は患者さんの数だけ違うのだと改めて思うのでした。
最期は自宅で迎えたい 知っておきたいこと