進行肺がん治療の最前線 新たな治療薬の承認で何が変わるのか

女性、60歳未満、非喫煙者に多い肺がんの新薬登場
女性、60歳未満、非喫煙者に多い肺がんの新薬登場(C)日刊ゲンダイ

 2021年9月、新たな肺がん治療薬が承認された。肺がんは、がんの中でも死亡数トップ。新薬登場で何が変わるのか? 国立がん研究センター東病院呼吸器内科長の後藤功一医師に聞いた。

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 肺がんは、がん細胞の形態によって小細胞がんと非小細胞がんに大別される。小細胞がんは15%、非小細胞がんは85%を占める。さらに非小細胞肺がんは、腺がん(60%)、扁平上皮がん(20%)、その他5%に分かれる。肺がんは「たばこが原因」といわれるが、肺がんの中で最多を占める腺がんは、たばことは関係なく発症する。

 近年、肺がん治療で行われているのが個別化治療だ。後藤医師が言う。

「肺がんでリンパ節や肺以外の臓器への転移が見られる進行肺がんの場合、全身治療である抗がん剤を中心にした治療が標準的な方針となります。その場合、遺伝子解析結果に対応して選択する分子標的治療薬がひとつの手段となります」

 進行肺がんへの薬物治療は、分子標的治療薬のほか、従来の抗がん剤(殺細胞性抗がん剤)、免疫チェックポイント阻害剤があり、その中で分子標的治療薬は、遺伝子変化に合わせて選択され、いわゆる個別化治療が行われている。

「がんは遺伝子の変化で起こります。肺がんの場合、ドライバー遺伝子といって、がんの発生、増殖、生存に直接関わっている遺伝子が特定されています」

■遺伝子変化に合わせて治療薬を選択

 よく知られるのがEGFR遺伝子だ。この遺伝子に変異が生じると、肺の上皮細胞の増殖の制御が困難となり、がん化する。肺がんは前述の通り、がん細胞の形態で小細胞がん、非小細胞がんに分別され、非小細胞がんは更に3つに分別されるが、今は遺伝子変化の種類に基づいて細かく分けて治療戦略が練られている。

「遺伝子変化が認められるのは主に、肺がんの最も多くを占める腺がんなのですが、非小細胞がん7213例(主に腺がん)を解析した結果、およそ7割の患者さんにドライバー遺伝子変化が見つかりました。腺がんのうち約半分はEGFR遺伝子が占め、ALK、ROS1、MET、NTRK、BRAF、そして今回新薬が承認されたRETなど、多数のドライバー遺伝子が分かっています」

 つまり、進行肺がんの治療は、遺伝子変化の有無を確認し、それに応じた分子標的治療薬を選択するという個別化治療の流れになっているのだ。遺伝子ごとに分子標的治療薬は登場しており、例えば、EGFR遺伝子の変異に対してはオシメルチニブ、アファチニブなど。ALK融合遺伝子変異にはアレクチニブ、ブリガチニブなどがある。

 今回の新薬レットヴィモは、RET融合遺伝子が陽性の肺がん(RET肺がん)に用いることが承認された。RET肺がんは、女性、60歳未満、非喫煙者に多く認められる。レットヴィモは、RET融合遺伝子を選択的に阻害し、細胞増殖のシグナルを抑え、結果的に肺がん細胞の増殖を抑制する。国際共同第1/2相臨床試験では、未治療のRET肺がんに対して奏効率70.5%、すでに何らかの治療が行われ、2次治療以降にレットヴィモが投与されたケースでは奏効率56.9%だった。

「従来の抗がん剤の奏効率は30~40%くらいなので、レットヴィモでは格段に高い治療効果が得られる可能性が高い。レットヴィモに限らず、分子標的治療薬は治療効果が高く、正常細胞への作用が少ないので一般的に毒性が軽く、QOL(生活の質)も高く保てます」

 従来の抗がん剤は脳関門を突破できず、それゆえ、がんの脳転移には効果を発揮できなかったがレットヴィモを含む分子標的治療薬は脳転移にも効果を発揮することが研究で分かっている。

 もしかしたら、今後は「肺がんはがんの中で死亡率トップ」と言われなくなるかもしれない。

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