独白 愉快な“病人”たち

射精した瞬間にピキッと…笑福亭羽光さん語る「解離性脳動脈瘤」

笑福亭羽光さん
笑福亭羽光さん(C)日刊ゲンダイ
笑福亭羽光さん(落語家/49歳)=解離性脳動脈瘤

 2019年12月に「解離性脳動脈瘤」を発症し入院しました。脳内の動脈の血管の一部の壁が剥がれ、血流が悪くなって血管がコブのように膨れてしまう病気です。放っておいたら脳梗塞を起こしたりしてしまうそうで、怖い思いをしました。

 発症した時は、旅先で寒い地方に行っていました。ホテルで夜、日本酒をしこたま飲んで寝たんです。翌朝起きてすぐ、特にすることもないからスマホでエッチなフリー動画を見ながらオナニーしたんですね。そしたら、射精した瞬間に首の後ろがピキッと筋を違えたようになって、スーッと何かが流れて頭が軽くなる感覚がありました。

「何や、今のは」と思いましたが、体調に悪いところはなく、その日はそれだけ。ところが、その翌朝、激しい頭痛で目が覚めたんです。

 後頭部の下の方をバットでガンガン殴られているような、尋常じゃない痛みでした。高座があったんでガマンして務め、2日後に東京へ戻ってから近所の総合病院を受診しました。

 でも、CTを撮ったら異常なし。「肩こりからきてるのでしょう」と言われ、首の牽引をしました。それから10日ほど通院し牽引したけど治らない。それでもっと大きい総合病院を受診しました。MRI検査をしたところ、解離性脳動脈瘤で出血していたと判明したんです。

「安静にしていないといけない」と言われ、車椅子に乗せられ即入院。降圧剤の飲み薬を服用し、点滴を受けて自然修復するのを待つということでした。点滴に鎮静剤か何か入っていたのか、記憶が薄れていき、死の恐怖と不安でいっぱいに……。「肩こり」と診断を誤った医者に腹も立ちました。10日間、肩こりと侮ってあちこち動き回り、首の牽引なんかしたことを考えるとゾッとしましたよ。

「これはおかしい」という自分の感覚を信じ、別の病院を受診してホンマによかった。もっといえば、「尋常じゃない」と思った時は、最初から大きな病院を受診することが大事やと痛感しましたね。

■恥を忍んで主治医に告白すると…

 原因は高血圧。上(収縮期)が150(㎜/Hg)になってたんです。ボクは両親も高血圧やないし、昔は低血圧で、それまで年1回の健診でも、高血圧を指摘されたことはありませんでした。

 自分では前日のオナニーが直接の原因やないかとにらんでいます。恥を忍んで主治医に告白して聞いてみましたが、「関係ありません」と否定され、ボクが創作エロ落語が得意なのを知っている20代の看護師さんもあきれてましたけど、世の中には腹上死なんてものもありますし、うつむいてやる姿勢も首には負担だと思うので、あり得ない話ではないと思っています。

 結局、10日間の入院中に梗塞は起きず、手術もせずに済み、年明けに退院となったので一安心でしたが、今も毎朝1錠「アムロジピン」という降圧剤を飲んでいます。

 そして、3~5カ月に1度は通院し、MRI検査を受けて経過観察しています。剥がれた血管が完全に治癒したわけではないので、このまま一生経過観察を続けなくてはいけないかもしれないそうです。

 毎朝、自分で血圧測定もしています。アムロジピンを飲んでいるのに日によって数値はまちまちで、特にお酒を飲んだ翌日は上が140になったり。飲酒は高血圧の原因になるそうですね。酒は何でも好きで、家では毎日、ビールでいったら500ミリリットル缶を2~3本は飲んでいます。週1~2回、外で飲む時はその3倍ぐらい。控えた方がいいんでしょうけど……。

 好きなラーメンを控え、塩分や脂っこいものを減らすようにし、痩せるためによく歩くようにしています。激しい運動はよくないようです。入院した時、中2の息子が「パパはオナニー禁止だね」と言ってたらしいですが、オナニーは変わらず毎日励んでいますね。

 退院後、長年の友人であるねづっち(漫談家)に会ったので、病気の話をしたら「なるほど、まさにマス酒ですね」などとダジャレを言われまして、こんな話をボクも噺のマクラにしていますが、冗談ではなく“生死”のかかった大病を経験して、「時間は有限」だと強く意識するようになりました。

 大学在学中からお笑いコンビを組んで活動し、漫画原作を手掛けたりもして、34歳と遅い年齢で鶴光師匠に入門しましたから、何歳までプレーヤーとして高座に上がれるかと考えると、時間はそれほどない。だから、優先順位を考えて行動するようになりました。

 気を使う打ち上げの席は極力断り、「○歳までにこんな作品を作っておきたい」と考えたり、好きな小説を読んだり、家族と過ごす時間を増やしたりしています。

 急に命が途切れる可能性もある。仲の良い落語家に「もしオレが亡くなったら、携帯はおまえが持ってってくれ」と言づててあります。ヨメに見られたら困ることもありますんでね(笑い)。

(聞き手=中野裕子)

▽笑福亭羽光(しょうふくてい・うこう)1972年、大阪府高槻市生まれ。本名・中村好夫。大阪学院大学経済学部在学中に同級生とお笑いコンビを組み活動開始。98年、4人組お笑いユニット「爆烈Q」のメンバーになると同時に第35回ギャグ漫画新人賞を受賞し、漫画原作者としても活動を始めた。2007年、笑福亭鶴光に入門。自身の経験をもとにした“青春エロ”をネタにした新作落語を得意とし、20年にはNHK新人落語大賞を受賞する。21年に真打ち昇進。2月25日に「新潮講座神楽坂教室」(東京・矢来町)で「関東人のための上方落語高座講座」を開催。

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