がんと向き合い生きていく

パンデミック下のがん治療は自己判断で取りやめてはいけない

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 新型コロナウイルスのオミクロン株は、とても感染しやすいことが知られていて、どこで、どうして感染したのか分からないという方がたくさんおられます。また、重症化は少ないといわれても、連日亡くなる方の報告を目にします。しかも、さらなる新株の登場も心配されているのが現状です。

 がん患者においては、重症化しやすいことから多くの方は不安を抱えています。それでも、糖尿病や高血圧などの基礎疾患を持っている方に比べ、より重症化率が高くなるかどうかは分かっていません。

 先日の朝日新聞の報道では、がん患者の就労を支援する団体の調査で、コロナ感染症の流行を受け、5人に1人は治療の内容を変更していたことがわかりました。治療のキャンセルや延期で、その内訳は外来、血液やCT検査、注射による薬物療法、外科手術、緩和ケア病棟の利用となっています。

 また、がんで「基礎疾患がある」として優先してワクチン接種を受けられた人は32%にとどまったようです。

 がん患者といっても、がんの種類、進行度はさまざまです。現在の身体状況のことも含め、治療をどうするかは担当医との相談がとても大切です。がんを完治させるために手術が最適である場合は、極力予定通り手術が考慮されるべきと思います。しかし、病院の職員や患者に感染者が出た場合など、パンデミック時においては、手術の延期を考慮せざるを得ない場合も想定されます。

 また、市中の感染状況の変化によっては、治療方針を変えなければならないこともあり得ます。だからこそ、担当医と十分に相談することが大切で、自己判断で治療を回避してしまうことがないようにしたいものです。

■手術延期の場合は有効とされる治療への変更も考慮

 日本外科学会では、新型コロナウイルスのパンデミック下における外科手術トリアージの基本的な考え方として、「新型コロナウイルス陽性および疑い患者に対する外科手術に関する提言(改訂版)」を出しています。その中で、ほとんどのがんは「数日から数カ月以内に手術しないと致命的となり得る、あるいは重大な障害を残す疾患」とされ、「十分な感染予防策を講じ、慎重に実施」としています。

 一方では、がんの種類で、その病態の違いから手術の優先順位があるとの意見もあります。消化器がんでの手術が優先される順は、膵臓がん、結腸・直腸がん、食道がん、胃がん、というのです。しかし、一口に胃がんといっても、早期がんや進行がん、そしてさまざまなタイプがあります。

 固形がんの治療は、多くは外科手術が主体です。薬物療法や放射線治療法が進化しても、根治手術が出来るか、出来ないかで患者のその後の生活が違ってきます。一概に優先順位は決められません。ただ、食道がんはその進行度にもよりますが、放射線化学療法が外科手術に匹敵するデータもあり、パンデミック時の治療法変更もあり得るといえます。

 コロナ感染の状況によって、もし手術が延期されるとなった場合、黙って手術を待つのではなく、胃がん、膵臓がん、乳がん、肺がんなどで術前化学療法が有効とされている場合は、それを選択することも考慮に入れたいところです。パンデミックがいつまで続くか分からない状況であれば、大腸がんでも、術後化学療法を手術の前に実施することも検討に値するのではないかと考えます。PCR検査やワクチン接種が必ずしも順調ではなかったこと、臨時隔離施設の設置状況、病院でのクラスター発生、子供の感染など、今も心配事は絶えませんが、知恵を集めて頑張るしかないと思うのです。

 老人施設では、感染が起こると「命に関わる」との覚悟から、感染対策は厳重に行われているところが多くあります。しかし、在宅療養となると個々の家庭の事情で大きく違っているようです。

 コロナ感染流行が「もう2年間も続いている」とはいえ、これからの犠牲者を最小限に抑え、なんとしても早く克服し、明るい日々を迎えられるようにしのがなければなりません。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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