五十肩を徹底解剖する

「腱板断裂」は腕の上げ下げはできるが途中で痛みを覚える

写真はイメージ
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 動かしづらさを伴う肩の痛みで、それが中年以降に起こった場合、病院では往々にして「五十肩」という一言でまとめられがち。しかし、五十肩は正しい病名ではなく、原因によっていくつかの病名に分けられることは、本欄で紹介してきた通りです。五十肩で最も多い凍結肩に続き、今回からは中年以降に起きる肩痛のひとつ、「腱板断裂」についてお話しします。

 胴体と腕をつなぐ肩関節は、17個の筋肉でつながっています。そのうち棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋の4つの筋肉をまとめて「腱板」と呼んでいます。ここが加齢やケガで断裂し痛みを生じたのが腱板断裂です。

「腱板」断裂と病名になるくらいですので、肩を語る上でとても大事な筋肉です。しかし、腱板は肩の丸みを帯びた外側の筋肉(三角筋といいます)の奥に隠れた内側の筋肉であるため、見たり触れたりしにくく、想像が湧かないかもしれません。

 凍結肩と腱板断裂では、症状にそれぞれ特徴があります。凍結肩では、気をつけの姿勢から前方向へバンザイをしても水平程度しか上がりません。他人の力でそれ以上に動かそうとしてもガチガチに硬く、患者さんは痛みを覚えるだけ。逆に胸の前辺りの、動かせる狭い範囲では痛みは感じません。

 一方、腱板断裂は水平以上にまでバンザイできることが多いです。ただし、上げ下げの途中で痛みを覚えますが、痛い角度を越えればほぼ天井に向かって真っすぐ手を上げられる例まであります。

 また、動作中の痛みをごまかすため、腕を上下するスピードが途中でいったん落ちるのも腱板断裂ならでは。痛みの出る軌道を避けようとしたり、痛みをこらえるため反対の手で腕を支えようとしたりします。

 凍結肩の場合、関節包という靱帯が固まっているだけで、筋肉はつながっていますので力は落ちません。しかし肩の主要な筋肉である腱板が断裂すると力が落ち、自分の腕すら持ち上がらなくなることもあります。

 ただし、凍結肩も腱板断裂も通常のレントゲンでは目立ったものがありません。かつ凍結肩は肩の深部にある靱帯(関節包)の問題、腱板断裂は外側の筋肉の下に隠れ、見えず触りにくい腱板の問題であるため、一見では診断が難しいです。しかし、腱板断裂は40歳代から出現し日本では約1900万人存在するといわれています。わかりにくいからと単なる「五十肩」と安易に流すには懸念が残るところです。

安井謙二

安井謙二

東京女子医大整形外科で年間3000人超の肩関節疾患の診療と、約1500件の肩関節手術を経験する。現在は山手クリニック(東京・下北沢)など、東京、埼玉、神奈川の複数の医療機関で肩診療を行う。

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