東洋医学を正しく知って不調改善

「お灸」はなぜ効くのか? ピンポイントにツボを温めるから

もぐさ
もぐさ(C)日刊ゲンダイ

 お灸は、東洋医学における温熱療法の総称といえます。乾燥させたヨモギの葉の裏側にある綿毛を集めて作ったもぐさを、体にある経穴(ツボ)の上で線香などにより火をつけ燃やし、一定の温熱刺激を与える方法が主流です。

 体を温めるという点では温浴と似ていますね。しかし、お灸はただ温めるだけでなく、ヨモギ自体が持つ漢方成分を浸透させ、さらにピンポイントにツボを温めるということで一層の効果が期待できます。

 ツボを刺激する療法には鍼灸がありますが、お灸にはもぐさの燃焼熱をツボから体内に伝え血行を良くする作用があります。そのため、血流増加による代謝のアップや、神経を介した内臓機能の改善、鎮痛効果があることが近年の研究でわかっています。

 さらには江戸時代に広まった灸法である「打膿灸」(大きなもぐさで故意にやけどをつくり、やけどの痕から膿を排出させて治療)に代表されるように、お灸をした部位の組織損傷の過程で、白血球の増加にともない細胞修復機能が活性化し、免疫機能を高める効果もあるとされています。

 そもそも、このお灸の歴史は古く、中国の春秋戦国時代(紀元前8世紀~前3世紀)に始まるとされています。日本では平安時代にはすでに行われており、鎌倉時代に仏教の普及と共に僧医が広め、各神社仏閣の名を冠した灸法も考案されるなど定着していきました。戦国時代には、戦国武将たちもお灸をしていたようです。江戸時代には庶民の生活に根づき、家庭で灸をしたり、市中には「灸すえ処」などのお灸施術所もありました。

 かの俳聖である松尾芭蕉も「三里に灸すゆるより、松島の月まづ心にかかりて」という一節を「奥の細道」の序文に添えています。この文章からは、当時の庶民が足のすねにある三里のツボにお灸をして、足の疲れを癒やしていたことがうかがえます。

 お灸が対処する具体的な症状としては、関節痛、筋肉痛、神経痛のほか更年期障害や不妊症などの婦人科疾患など多岐にわたっており、人間本来が持つ自然治癒力を引き出す東洋医学を代表する治療法といえるでしょう。

中村幹佑

中村幹佑

日本医学柔整鍼灸専門学校鍼灸学科専任教員。はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師。

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