最期は自宅で迎えたい 知っておきたいこと

患者さんやご家族の不安を取り除くために我々がしていること

写真はイメージ
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 これまで「在宅医療」を開始された患者さんやご家族の多くは、「これからどうなるのだろう」といった不安を抱えながら開始された方がほとんどでした。その不安の種類もその患者さんやご家族の数だけあり、さまざま。

 しかもその要望する内容や思いは時間の経過とともに変化していきます。そのため我々は導入後も、機会があるたびに何度でも、患者さんやご家族の思いを確認するように心がけてきました。

 それは「在宅医療」というものが、入院とは違い、患者さん自らが自分の療養生活の方向性やあり方を我々と一緒になって決める必要があるためなのです。

 いわば我々はもうひとつのメンバーとして参画するわけで、患者さんは自身の選択を重ね、自分や自分の家族が望むテーラーメードな「在宅医療」をつくり上げていくわけです。

 ただ、選択肢はいくつもあるので、時には患者さんやご家族を惑わせたり、悩ませたりしてしまうこともあります。そんな時、当院では医師や診療パートナーが、患者さんの本音をできるだけくみ取り、患者さん自身や家族が意思決定する過程をサポートするように努めています。

 その場合も一歩踏み込み、「何を希望するか」だけでなく「なぜそれを希望するのか」もじっくり聞くようにして、その時に患者さんの思いや価値観、嗜好なども理解するようにしています。

 それはまるで、パック旅行でない、オプショナルプラン満載の自分だけの旅行プランを一緒につくり上げる、ツアーコンダクターの作業とも重なるかもしれません。

 自分の療養生活を、患者さん自らが選択して決めるという作業は、まさに自分の選択の積み重ねで出来上がっている、人生の縮図とも言えるものです。

 とはいえ介護する家族も高齢化している現在では、やはり「在宅医療」への不安は減ることはなく、むしろ今後も増加することでしょう。そのためにも急性期の病院・回復期の病院においては、患者が退院後、安全に安心して療養生活ができるように、責任あるきめ細かな退院前調整や引き継ぎが求められます。

 今後は個々の身体状況、居住環境、家族状況、介護の限界など、医療と福祉の両面の専門的見地に基づいて、患者本人や家族の意向を踏まえつつ、退院後の療養生活について総合的にコーディネートする専門機関も必要になってくることでしょう。

 さらに入院時の診療・看護情報が、在宅医療のケアチームにもしっかりとバトンタッチされることが望ましく、円滑に退院前カンファレンスが開催できる社会全体でつくり上げる体制づくりが今後は本格的に必要になってくるものと考えています。

 入院して安心を得ようとする患者さんと、過度な在宅介護をイメージして忌避するご家族。そして入院患者を受け入れる病院という3者の思いが、今日のいわば社会的入院を必要以上に増加させる原因となっています。そんな状況を変える意味でも、患者さんとご家族の不安を取り除く作業は今後もますます重要になっていくことでしょう。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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