高齢者の正しいクスリとの付き合い方

処方されるクスリが増えやすい人と増えにくい人には違いがある

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 薬剤師として勤務していると、よく聞く患者さんの言葉があります。それは、「病院にかかるたびにクスリを増やされる」というものです。病気の特徴や症状の度合いによってもクスリの内容は変わるものなので一概には言えませんが、多くの場合、このような患者さんには共通した特徴があります。それは、処方されたクスリをきちんと服用して(使って)いないということです。

 経験上、処方通りにクスリを服用していないと、まず間違いなくクスリの種類は増えます。なぜかというと、医師は「処方したクスリがしっかり服用されて(使われて)いる」と思って診察しているからです。

 血圧のクスリ=降圧薬を例に挙げて説明します。仮にAという降圧薬が処方され、患者さんがそれをきちんと服用していなかったとしましょう。当然、血圧は思ったように下がりません。すると次の診察のとき、医師は「Aだけでは血圧がしっかり下がっていないので、もうひとつBという降圧薬を追加しよう」と考えるわけです。その後も、AもBもきちんと服用していないと、さらにC、D……というようにどんどんクスリの種類が増えていってしまいます。同様のことが、あらゆる種類のクスリで起こりうるのです。

 とりわけ高齢者は通院歴が長いことも多く、こういったことがさまざまなクスリで、かつ長期間起こっていた結果、クスリの種類が膨大になってしまっているケースもあるでしょう。また、高齢者はあらゆる体の機能が低下しているため、非高齢者と比べてクスリの副作用が起こりやすくなっています。そのリスクはクスリの種類が増えれば増えるほど増加するので、こうした“負のサイクル”は避けるべきです。

 これもよく経験することですが、入院するとクスリをきちんと服用することになるので、途端に症状が改善する場合があります。症状が改善するだけであればまだ良いのですが、クスリの作用が強く出過ぎてしまって逆にクスリを減らさなければならないケースもあります。これは、入院前に患者さんがきちんとクスリを服用していなかったことが明らかな事例といえるでしょう。

「病院にかかるたびにクスリを増やされる」ことの原因は、もしかしたらご自身のクスリの服用状況にあるのかもしれません。クスリが増えるということは医療費も増えるということなので、当然、金銭的にもデメリットになります。

 これ以上、クスリの種類を増やさないための最大のポイントは、まず処方されたクスリをきちんと服用することです。これは高齢者だけでなくすべての人に当てはまることですが、体のためはもちろん、お財布のためにも処方されたクスリはきちんと服用し、“クスリが増えにくい人”になりましょう。

東敬一朗

東敬一朗

1976年、愛知県生まれの三重県育ち。摂南大学卒。金沢大学大学院修了。薬学博士。日本リハビリテーション栄養学会理事。日本臨床栄養代謝学会代議員。栄養サポートチーム専門療法士、老年薬学指導薬剤師など、栄養や高齢者の薬物療法に関する専門資格を取得。

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