痛みのない暮らしを取り戻す

29歳で潰瘍性大腸炎に… 神経ブロックで強烈な痛みが消えた

写真はイメージ
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 私は神経ブロック治療を中心として、疼痛(とうつう)管理をする麻酔科の医師です。父も麻酔科の医師でした。尊敬する父の背中を見て、私も麻酔科を目指したのですが、医師として毎日が充実し、夢と希望にあふれていた29歳の時、思いがけないことが起こりました。熊本赤十字病院麻酔科に勤務中、過労が原因で中等度の全結腸型の潰瘍性大腸炎(全大腸炎型)になったのです。

 当時、全大腸炎型は、10年後に大腸がんになる確率が健常者の7~10倍高いタイプだと説明を受けました。1990年当時の潰瘍性大腸炎の患者数は2万2000人程度で、一般的にはそれほど認知されていない疾患でした。しかし、医師であった私はこの病気の難治性とやっかいさを理解していたため、大きなショックを受けたのです。苦しい治療が続きました。その後4度再燃し、合計7年間、4回の治療入院を経験しました。

 潰瘍性大腸炎がつらいのは、トイレに行く回数がものすごく多いことと、下痢と血便の強烈な痛みにさいなまれることです。トイレは1日に40回以上はザラで、昼でも夜中でもトイレとベッドの往復でグッタリして、2度目の入院時は1カ月で体重が23キロも落ちてしまいました。最後のほうは血便しか出ず、臨死体験まで経験しました。

 当時から「星状神経節ブロック」が潰瘍性大腸炎に効果の高い治療法として認識をしていて、私も効果を実感しました。星状神経節ブロックとは、保険が適用される麻酔薬を使った治療法で、上半身の痛みや、めまい、ふらつき、顔面神経まひなどに保険適用があります。頚部にある星の形をした交感神経節に麻酔薬を注入し、過剰に反応しすぎている交感神経を一時的にブロックするのですが、全身的な病態で、特に難治性疾患(がん、潰瘍性大腸炎など)に効果が出るケースも報告されていました。

 痛みとは人生の苦痛を増大させるものです。ただでさえ病気でめいっている精神に痛みが加わることで、気力まで奪われてしまいます。

 神経ブロック治療で痛みが消えると、QOL(生活の質)が上がり、苦しい治療に対する向き合い方も変わります。自分自身の患者としての経験からも、このことがいかに人としての生活で重要かを実感しています。

西本真司

西本真司

医師になって34年。手術室麻酔、日赤での緊急麻酔、集中治療室、疼痛外来経験後、1996年6月から麻酔科、内科のクリニックの院長に。これまでに約5万8000回のブロックを安全に施術。自身も潰瘍性大腸炎の激痛を治療で和らげた経験があり、痛み治療の重要性を実感している。

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