名医が答える病気と体の悩み

ただの物忘れなのか…どんな異変があれば認知症外来にいくべき?

精神科医の今野裕之氏
精神科医の今野裕之氏(提供写真)

「その話、この間も聞いたと言われました」「忘れ物が増えた」──。

 加齢による物忘れなのか、認知症の前兆なのか。迷われる方は少なくありません。分かりやすい基準でいえば、たとえば老親が捜し物をして混乱しているときに、「ハサミはどこかの棚の引き出しにしまっていると言わなかったっけ?」などとヒントを与え、思い出せるなら加齢によるものです。これが認知症なら、「そんなことは言ってない。棚って?」といった反応をします。記憶ごとゴッソリ消えてしまうのです。

 クリニックに訪れる患者さんやご家族に対し、私が確認しているポイントは次の7つです。

①他人から何度も同じことを言っていると指摘されることが増えた(酔っている時のみならOK)。

②財布や通帳など貴重品をなくしたり、持っていくのを忘れることが増えた。

③数分前に聞いた話を思い出せないことがある。

④日付や曜日が思い出せないことがある。

⑤家族や友人、馴染みのある家電や道具の名前が出てこないことがある。

⑥買い物に出かけて、数日以内に同じものを何度も買う。あるいは買い忘れがある。

⑦部屋の片づけができなくなってきた。

 これらは、頻度が重要。たとえ、1項目だけでも、数日から1週間に数回程度と目に付くほどあれば要注意です。

 気になる症状があればかかりつけ医に相談し、認知症外来への受診をおすすめしますが、初期の場合、本人も何となく自身の異変を自覚しているので「認知症」という言葉に敏感に反応します。診察に行きたがらないので、「最近、忘れものが多いから家族として心配だ。治る可能性もあるから一度診てもらおう」などと伝えるとよいでしょう。

 実際に診察をすると、認知症ではなく、よく似た症状の「老人性のてんかん」であったり、「甲状腺機能低下症」や「ビタミンB不足」などの病気で、認知機能が下がるケースも少なくありません。これらの病気も対策は早い方がよいので、診察は急ぐ必要があります。

 アルツハイマー型認知症であれば完治は難しいですが、診断が早ければ進行を緩やかにする対策も講じられます。

▽今野裕之(こんの・ひろゆき)2001年日本大学医学部卒業後、慶応義塾大学病院、日本大学医学部付属板橋病院、西東京市役所精神科産業医、医療法人回生会新宿溝口クリニック勤務(非常勤)などを経て、16年からブレインケアクリニック院長。日本認知症学会、日本抗加齢医学会などに所属。認知症予防、老化予防、精神疾患全般のテーマで講演も多数。

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