Dr.中川 がんサバイバーの知恵

葛城ユキさんはステージ4 腹膜がんは取り切れなくても減量手術を

葛城ユキさん
葛城ユキさん(C)日刊ゲンダイ

 パワフルな歌声が印象的な歌手の葛城ユキさん(本名・田中小夜子)の訃報が伝えられました。享年73。死因は、腹膜がんです。

 腹膜は、胃や肝臓など腹部にある臓器の全体ないし一部を覆っている半透明の膜で、総面積は1.7~2.0平方メートル。体表の表面積に匹敵する広さになります。そこにできたと考えられる腫瘍が腹膜がんです。

 腹腔内の病気で、初期は症状がなく、早期発見が難しい。進行すると、お腹の広範囲に腫瘍が広がって、リンパ節やさまざまな臓器に転移し、腹膜に水がたまり、その腹水による腹部膨満感や腹痛、腰痛、排便の異常などを感じることがあります。

 葛城さんも、昨年4月に腹膜がんが判明したときはステージ4だったそうです。腹膜がんは女性に多いので、お腹が張る感じが続くようなら、婦人科を受診するのがよいと思います。

 このがんの性質は卵巣がんと似ていて、治療は卵巣がんと同じで、手術と抗がん剤が中心です。進行してから見つかることが多いため、腫瘍の広がりで全身状態が悪かったり、高齢だったりするため、まず抗がん剤治療をしてから手術することが珍しくありません。

 抗がん剤は、パクリタキセルとカルボプラチンの併用が一般的。これに分子標的薬のベバシズマブを追加することもあります。

 どんながんであれ、手術はがんを完全に取り切ることが目的ですが、腹膜がんはすべてを切除できるのはまれ。その量を減らすことを目的とする減量手術が行われる数少ないがんです。

 特に卵管の先端には腹膜がんの元凶が潜んでいることが多く、子宮に広がることもよくあるため、卵巣と卵管、子宮も切除します。これに胃の下部からエプロンのように垂れ下がった腹膜を大網と呼び、この大網も切除するのが、手術の基本です。

 さらに転移が起こりやすい横隔膜、ほかの臓器の切除も不可欠になりますが、前述したように完全切除はまれ。大がかりで高度な手術ですから、婦人科腫瘍医を中心とした各科の連携が欠かせません。

 このがんは、遺伝が関与する家族性腫瘍の可能性もあるため、初回の手術の後にBRCA検査も行います。米女優アンジェリーナ・ジョリーは乳がんと卵巣がんの予防で乳房と卵巣、卵管を予防切除しました。その根拠となったのが、この検査です。その結果が陽性なら、PARP阻害薬のオラパリブやニラパリブの投与を考えます。

 葛城さんのご冥福をお祈りいたします。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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