今回は70代の男性、Bさんの例を紹介しましょう。大きな会社の人事部に所属していて、一度に50人くらいのリストラをする担当者です。会社存続のためとはいえ、多くの人の解雇に直面しなければならないストレスが、Bさんの心と体をむしばんでいたようです。
大きなリストラを3度ほど行った後、潰瘍性大腸炎の症状が出たそうです。前に通っていた病院では10年間のうち6回入退院を繰り返し、炎症は直腸だけから大腸全体へと広がっていました。薬で症状を抑えながら仕事を続けていたのですが、発症10年後に大腸の全摘出を告げられ、手術をしたくなかったBさんは行き詰まりました。
そこで潰瘍性大腸炎の経験者であり、病気を克服した私の著書(2004年、07年)を読み、09年に来院されたのです。
私はBさんに漢方薬を処方しながら、クリニックでの治療は星状神経節ブロック療法、呼吸法、音楽療法、階段昇降などがあることを伝えました。星状神経節ブロックは、交感神経の過緊張を抑え、全身の血流を促進し、ホルモンの乱れや免疫のバランスを整えます。潰瘍性大腸炎はストレスによる交感神経の過緊張が原因で起こる疾患なので、この療法はとても有効です。
また、ストレス下では正常な判断ができなかったり、情緒が不安定になったりしますが、星状神経節ブロックによる血流促進で痛みが和らぎ、精神状態も安定します。
Bさんはある時、「完全無農薬の野菜を作る」と畑仕事に精を出すようになりました。Bさんの中で、何かがはじけたようで、この頃から家の階段の上り下り10往復を始め、1000日間継続。食生活にも気を配るようになり明らかに生活態度が変化しました。それに伴い症状が改善し、今では寛解しています。
ペインクリニックといえば体の痛みを取るものと考えられがちですが、体の痛みは、心の痛みとも深い関係があります。Bさんの生き方から、それを見ることができたと感じています。
痛みのない暮らしを取り戻す