Dr.中川 がんサバイバーの知恵

秋野暢子さんが告白した食道がんで厄介なのは「咽頭との重複」

秋野暢子さん
秋野暢子さん(C)日刊ゲンダイ

 女優の秋野暢子さん(65)が、がんの治療で活動を休止するとの報道がありました。事務所の発表や本人のブログなどによると、頚部食道がんの重複がんで、今週中に治療方針を決めるとのこと。「ポジティブで暢気な性格なので、落ち込むこともなく、闘い抜くための勇気が湧いてきています」と前向きなのは何よりでしょう。

 今回のポイントは、重複がんです。医学的には別々に発生したと考えられるものを重複がんといいます。今回は、同時的に「食道の上下に(ステージ2~3が)3カ所」見つかったようですが、重複が同じ臓器でも、違う臓器でも、発生が別なら重複がんで、さらに発生のタイミングがずれてもそうです。

 これと似ていて全く異なるのが、転移です。たとえば、大腸がんが胃に転移したとします。胃のがんは、大腸がんの細胞が流れて発生したもので別ではありません。これが重複がんとの決定的な違いです。

 この食道がんは、重複しやすい特徴があります。秋野さんのように食道に複数が重複するのが一つ。もう一つは、咽頭や舌など別の部位です。食道がんの2割は、食道以外にもがんができる重複がんといわれています。

 食道がんは、アルコールとたばこが大きなリスクで、咽頭がんも舌がんも2大リスクが重なるため重複しやすいのです。舌がんをはじめ口腔がんの人も20%に食道がんがあるといわれます。食道とのど、口のがんは、とてもオーバーラップしやすいのです。

 秋野さんは35歳までたばこを吸われていたようで、アルコールは2年前に禁酒。一般に禁煙の効果は、20年でたばこを吸わない人と同じになるとされますから、秋野さんはお酒の影響が強いのかもしれません。

 食道がんと咽頭がんの重複が厄介なのは、治療の後遺症が重いこと。手術は声帯を切除するため声を失い、声帯を残す化学放射線療法でも照射範囲がとても広いため、口内炎やのどの痛みがひどく、声のかすれも強い。どちらの治療も、厳しいのが現実です。

 自治体のがん検診は、胃がん、肺がん、大腸がん、乳がん、子宮頚がんの5つが対象。人間ドックでも、食道がんの項目はありません。

 では、酒を飲み、たばこを吸うようなリスクが高い人はどうするか。重要なのは胃がん検診、この場合、内視鏡に限りますが、その受け方です。胃カメラ検査を受ける前に、「酒飲みなので、食道もしっかりと見てください」とお願いすること。私も毎年、そうしています。

 それで、もし食道がんが見つかったら、咽頭がんを想定した検査も受けるべき。逆もまたしかりです。

 転移がんは治りにくいものの、重複がんは早期なら治りやすい。秋野さんのように前向きさが大切です。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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