老親・家族 在宅での看取り方

夫を自宅で看取った80代女性「自分も自宅で旅立ちたい」

写真はイメージ
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 最期を自宅で迎えたい。しかし一人暮らしで、看病をしてくれる子供や親族が近くに住んでいない、あるいはそう頻繁に通って来られるわけではない。これでは、在宅医療を受けるのは難しいだろう--。そう思っている人も多いのではないでしょうか?

 こんな方がいました。その方、Aさん(80歳)は今年4月、ご主人を自宅で看取られました。ご主人は重い肺の病気で、本人のたっての希望で在宅医療を受けていたのです。

 Aさんは、お一人暮らしになった時、「病院ではなく、自宅で、好きなものに囲まれて逝きたい」としみじみ思われたそうです。ご主人の看取りを経験し、慣れ親しんだ自宅で過ごす素晴らしさを痛感されたとか。

 実はS状結腸がんを患っており、すでに複数の臓器にがんが転移。旅立つ時が近いことも覚悟されていました。

 Aさんのお宅はマンションの3階にあり、マンションにはエレベーターがない。どこへ行くにも階段の上り下りが必要です。がんの進行に伴い、貧血に伴う息切れが生じるようになり、通院や買い物などが困難になってきた。娘さんがいるものの、娘さんもご家族がいますから、そう頻繁にAさん宅へ来られるわけではない。

 いよいよ入院しなければならないか、となった段階で、ご主人の在宅医療を通して交流があった私たちのクリニックに相談の電話をかけてきてくれました。「一人暮らしでも、入院せずに、在宅で治療を受けられますか?」と。

 一人暮らしでも、最期を自宅で迎えるのは十分に可能です。ケアマネジャーが早速Aさん宅に赴き、環境整備をしました。具体的には、トイレに手すりを導入する、毎日のように看護師さんやヘルパーさんが家に来られるように手配するなど。現行の医療保険に加え、介護保険が適用となるため、費用の面でも負担は大きくありません。

 当然ながら、治療は私たちがご自宅まで伺いますから、階段の上り下りができなくても問題ない。食料品など日常生活で必要なものの購入も、ヘルパーさんたちによって対応できます。

 在宅医療を行うクリニックのスタッフは、緊急時にはいつでも駆けつけられるよう、24時間いつでも稼働していますので、何かが起こった時も、心配ありません。そもそも、ご家族と同居していても、療養中、ご家族が常に自宅にいるというわけではありませんからね。

 あと3~4年もすれば団塊の世代がすべて後期高齢者となり、超高齢化時代の本番を迎えます。高齢者の一人暮らしは当たり前となってくる中で、一人暮らしの「自宅で最期まで」も、当たり前になってくることと思っています。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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