認知症を疑うべき点は、「変化」です。これまでの暮らしぶりや仕事ぶりから考えて、「何かおかしい」と感じる変化はないか? それを繰り返していないか? 最初に気付くのは、恐らくご自身です。そういった場合、ぜひ勇気を持って、医療機関を受診して欲しいと思います。
では、どういったところを受診すればいいのか?
ポイントは、診療科では選ばないことです。病院では精神科、脳神経内科、脳神経外科、老年科などがありますが、それぞれの科でも認知症を得意とする先生とそうでない先生がいます。なので、「もの忘れ外来」などと銘打った認知症の専門外来を受診されるのがよいでしょう。また、各地域には認知症疾患医療センターがあります。そちらを受診することもよいと思います。
認知症を専門とする医師なら、「認知症が心配で」と受診者がおっしゃる場合、まずは面談で現在の状態やこれまでにかかった病気などを伺います。そして病気の鑑別のため、認知機能検査、血液検査、脳画像検査(MRIやCT検査)を行うでしょう。
認知機能の評価は「長谷川式簡易知能評価スケール」や「ミニメンタルステート検査」といった神経心理学検査で行います。ここでは、今日の日付や場所などの認識、単純な計算や字を読んだり図形を描いてもらうなどの作業をしたりします。脳画像検査では、脳の形態から脳の萎縮の度合いを調べ、認知症の鑑別診断をしていきます。
ここで現実的な話をします。自ら「変化」を自覚し、勇気を持ってせっかく受診をしても、たいていの場合、検査結果は「異常なし」となるかもしれません。「なんだ、それなら病院に行く意味がないじゃないか」などと思わずに、どうぞこのまま読み進んでください。
■前段階では「変化」は明らかではない
認知症には、「認知症の前段階」があります。軽度認知障害(MCI)であり、さらにその前の段階である主観的認知機能低下(SCD)です。
認知症の最も多くを占めるアルツハイマー病は、「健康な状態→SCD→MCI→アルツハイマー病」と年単位の時間をかけて移行していきます。なお、SCDの全てがMCIになるのではなく、またMCIの全てが認知症になるわけではありません。研究では、MCIの半数が、5年以内に認知症(アルツハイマー病)へ移行するといわれています。
ご自身だけが変化を感じている段階、あるいは周囲も変化を感じているけど、仕事が普通にでき日常生活も自立して送れている段階は、認知症より前の段階、つまりSCDやMCIの可能性があります。
その場合、簡単な神経心理学検査では、正常範囲の結果しか出ません。CTやMRIの脳画像検査でも、SCDやMCIの段階では脳の形態の変化は明らかではありませんから、やはり異常なしとなってしまいます。
しかし、だからといって、放置していいわけではないのです。たとえば「長谷川式」は満点が30点、20点以下が認知症の疑いありと判断されますが、25、26点が「大丈夫」かというと、そうは言い切れませんよね。
ですから、「異常ない。大丈夫だから安心して」と医師から言われたとしても、油断しないほうがよいでしょう。もし、「今回は異常はないけど、自覚症状があるので、念のため半年から1年後にまた受診してください」と言われたなら、その医師は信頼が置けると思います。つまり、「大丈夫」と医師は簡単に言うべきでないということです。
本来は、脳画像検査だけで判断するのは不適切。私のクリニックでは神経心理学検査、脳画像検査、血液検査の結果とともに、日常生活のどのような場面で変化を感じるのか詳細な情報収集を行い、総合的に診断し、そして「今すべきこと」の作戦を具体的に相談していきます。
どうしても心配な場合は、アミロイドPET検査を受けるという選択肢があります。アミロイドPET検査はこれまで触れた通り、アルツハイマー病を発症する20年も前からたまり始めるアミロイドβの蓄積をチェックし、アルツハイマー病にかかっているかどうかを判断できる検査です。