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外国人の在宅医療 余命数カ月を宣告されたスキルス胃がんの東欧人女性

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写真はイメージ(C)Chinnapong/iStock

 最近、欧米を中心に外国の方から在宅医療に関する問い合わせをいただくことが増えました。私たちの話を聞き、実際に在宅医療に切り替える方も徐々に増え始めています。

 東欧から日本に移り住んだ女性(55歳)は、スキルス胃がん。日本に帰化してから長く、日本語はペラペラで、日本語での意思疎通は日本人と変わらないレベルでした。

 スキルス胃がんは予後が悪いがんとして知られています。「スキルス胃がん」というのは、胃がんタイプのひとつの俗称で、正確には「胃癌取扱い規約の肉眼的分類の4型」に当たります。はっきりした潰瘍やその周りの盛り上がりがなく、胃の壁が硬く、厚くなる進行性の胃がんで、比較的若い方や女性に多く、腹膜への転移を起こしやすい。転移がなく、手術で切除できた場合も腹膜に再発する危険が高い。

 この東欧人女性の場合、2021年7月に胃の切除手術を行っており、その後、抗がん剤治療を続けていました。スキルス胃がんではがん細胞が広範囲に浸潤し、腹水をきたしてしまうことが多いのですが、この女性も例外でなく、週1回、腹腔内に針を刺し腹水を抜く、腹水穿刺を受けていました。

 通院が厳しいので在宅医療に切り替えたいと、私たちのところに相談にいらっしゃったのは22年5月。紹介状である診療情報提供書には「余命2~3カ月」と書かれていました。

「誕生日までは難しいでしょうか。8月8日なのですが」(娘さん)

「ちょっと厳しいかもしれないです。ただ、ご本人はとても頑張り屋さんで、今もとても頑張ってくれています」(私)

「先週までは元気だったんです! ご飯も普通に食べていて、車も運転できて!」と涙を流しながら話す娘さんの姿は、私たちにとっても非常につらいものがありました。私たちにできるのは、患者さんのつらさをできる限り取り、娘さんやご友人との時間を充実したものにすることです。

 吐き気があるのは、おそらく腸液がうまく流れていないのが原因と考え、それに対処する薬を投与。嘔吐が頻回に見られ、ご本人は点滴が合わなかったと思っている節があったため、生理食塩水を静脈内注射しました。

 予想された小腸の閉塞に対しては、いくつかの治療法を提案。腸閉塞による腹痛や嘔吐を改善する薬「オクトレオチド」と生食点滴の治療を本人が希望されたので、それに応じた治療を行いました。

 実は先日、女性は安らかに旅立たれました。嘔吐も腹痛もなく、娘さんや信頼する友人、義弟さんに囲まれての旅立ちでした。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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