痛みのない暮らしを取り戻す

首の激痛がつらい…ドクターショッピングの末に来院した85歳女性

写真はイメージ
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 40代でアトピー性皮膚炎と関節リウマチを発症した房子さん(仮名)。現在85歳ですから、病歴はかれこれ40年以上になります。アトピー性皮膚炎も膠原(こうげん)病も、さまざまな種類の薬が登場したのは近年になってから。房子さんが治療を開始した40年以上前は薬の選択肢はごく限られており、しかもその時代は長く続きました。

 房子さんの話では、ステロイドや免疫抑制剤の使用経験があり、いずれも使い始めの頃は効果があったそうですが、次第に効かなくなってきたとのこと。使い方が適切でなかったのか、薬に対する耐性が出現したのか。薬というのは長年使っていると体の中で耐性が働くようになり、効きづらくなることは少なからずあります。そもそも、ステロイドの内服薬(飲み薬)は、副作用の観点から、長期的に使うものではありません。

 7年前、房子さんが初めて来院されたとき、アトピー性皮膚炎はかなり悪化。皮膚は腫れて膿(うみ)が出ていましたし、首の激痛が我慢できない状態でした。

 首の痛みというのは頚椎部分の関節リウマチの悪化によるものです。背中も丸くなってしまっていました。

 来院時の房子さんの白血球の値は1万2140マイクロリットルでした。正常値が3500~9000マイクロリットルですから、かなり高いことがわかります。これは体で炎症が起こっているということです。

 炎症反応の値も高く、正常値が0.3以下のところ、房子さんは10.27もあったのです。

 それまでいろんな病院を訪れられたそうですが、状態は悪化する一方、頚部の痛みも激しくなるばかり。

 そこでとにかく痛みの治療をする私の元にいらしたのです。こういう場合、やはり最初にやるべきことは痛みを取り除くことです。痛みがあると生活の質が急激に下がります。さらに痛みが継続すると、生活そのものが機能しなくなります。

 私は房子さんに頚部硬膜外ブロック療法を施し、漢方薬の十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)、真武湯(しんぶとう)を処方しました。

 ブロック注射は交感神経の過緊張を一時的にブロックします。これにより自律神経をつかさどる脳の視床下部が働き、血管が広がって血流が促進され、血中にある発痛物質が流れて掃除されて、痛みが緩和されるのです。

 ただ、高齢の方へのブロック注射は注意が必要で、慎重に行わねばなりません。

 幸い初回の治療で房子さんの痛みは緩和されました。さらに通い続けてくださった結果、白血球は6700マイクロリットル、炎症反応は0.05まで下がりました。どちらも正常値です。

 徐々に改善した房子さん。2年ほど前からは通院頻度も月に1回のペースになりました。今では体調も安定しています。

西本真司

西本真司

医師になって34年。手術室麻酔、日赤での緊急麻酔、集中治療室、疼痛外来経験後、1996年6月から麻酔科、内科のクリニックの院長に。これまでに約5万8000回のブロックを安全に施術。自身も潰瘍性大腸炎の激痛を治療で和らげた経験があり、痛み治療の重要性を実感している。

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