なぜ在宅医とケアマネジャーは自分で決めるべきなのか

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 親族が集まるお盆休みだからこそ話し合いたいことがある。そのひとつが老親の看取り問題だ。自宅で幸せな最期を迎えたいなら、ちゃんとした在宅診療や相性の良いケアマネジャーを選ぶことはもちろん大切だ。ただ、地域によっては医療や介護の環境が必ずしも整っておらず、結果として家族の介護負担につながったり、満足のいく治療や緩和が受けられないことも少なくない。では、どうしたらいいのか? 年間200人超の自宅看取りを行う「しろひげ在宅診療所」(東京・江戸川区)の山中光茂院長に聞いた。

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「在宅での適切な医療や介護を選ぶときに『専門家』にすべてを任せたくなるのは当然です。ベッドの手配から、施設の選択、どのような治療を受けるのか、素人である家族が考えるよりプロの方が幸せな未来をつくってくれそうな気がします。しかし、医師や看護師、ケアマネジャーは、医療や介護のプロであっても、患者やその家族の『価値観』や『生活環境』『痛みや苦しみの状況』をわかっているわけではありません。わかっているのは、患者本人や身近にいる家族です。在宅医療を受ける場合はそのことを自覚しなければなりません」

 特に注意したいのは24時間体制の医療をバイトドクターに委ねるような「なんちゃって在宅診療」だ。本人や家族の「医療選択」への思いに寄り添うのではなく、「何がなんでも延命」「可能な限りの精査や治療」という「医師としての標準的な選択」になりがちだ。結果として、看取りが間近な状態にもかかわらず、本人も家族も望まない救急搬送や入院になる事例も少なくないという。

「ケアプランから配食サービスの紹介まで幅広い業務を担うケアマネジャーですが、その選択にも注意が必要です。本来、誰にも忖度することなく患者さん本人の意思に従い、家族の負担を軽減するのにふさわしい介護環境を整えるべき存在ですが、その90%が施設や医療機関併設の居宅介護支援事業所になっています。簡単に言えば、『ひも付き』の仕事をしている介護の調整役の人が現実には多いということです」

 もちろん、こうした併設型に所属するからといって、必ずしも患者に対して不誠実とは限らない。ただ、ケアマネジャーの所属する経営者から、担当した患者を可能な限り、自分が持つ医療機関や施設に“誘導”する事例が多くなっており、その中立性、公平性が全国的に問題となっているという。

「経営者サイドの求める介護と現場で必要とする介護との葛藤に苦しむケアマネジャーの話もよく聞きます。本来は、自宅でヘルパーや訪問看護を導入することで家族もできるだけ一緒の時間を過ごしたいと思っていても、自前の介護施設があったり、デイサービスを持っていると、そこに所属するケアマネジャーは家族の希望より、組織の利益を優先した『介護選択』をしてしまうことも実際にはあるのです。このような『医療』と『介護』の歪みに患者やその家族がのみ込まれないためには、その環境を『自己選択』する勇気と決断が必要です」

■「話を聞いてくれる医師」を選ぶ

 まず、医療機関や医師を選ぶときには「話を聞いてくれる医師」を選ぶことは最低条件だという。

「私たちが患者に接していても、有名な大学病院の名前や高名な先生に“依存”をしている方が少なくありません。『自分のことを十分に話せなかった』『先生が出した薬が合わないから飲んでないのに、それを言えなかった』『病院に通うのが大変なのに、どうしても来なさいと言われた』……そんな話は日常茶飯事です。思い当たる人も多いのではないでしょうか。検査データや画像だけでは病気の全体像は分かりませんし、患者の苦しみや痛みは伝えなければ分かりません。話を聞かない、聞けない空気をつくる医師が、『病名』だけでは本来標準治療なんて決められないのに、不十分な情報に基づいて、より苦しめる薬を出したり、治療継続に負担感を課してしまっているのです」

 だからこそ、がんの末期の状態などで痛みや苦しみが強いときに、出された薬でより食事が食べられなくなったり、大幅な体重減少があったときにはまず医師にすぐに伝える必要があるという。

「なかには出された抗がん剤を飲み続けたらよくなると思い、ガマンして医師に伝えない人もいます。食べられなくなったり、痛みが十分に取れない薬の継続は、体に害はあっても利益にはなりません。そのような症状を訴えても、『頑張って薬を続けましょう』というヤブ医者は、患者を治療対象ではなく、『研究対象』として見ているのではないでしょうか」(つづく)

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