Dr.中川 がんサバイバーの知恵

早期の大腸がんで良績 新たな内視鏡治療「ESD」の課題

検便で早期発見
検便で早期発見

 2022年のがん罹患数予測では、大腸がんが男女合わせて15万8200人で1位。このがんは食の欧米化との関係が強く、このところ急増しているのです。そんな大腸がんにうれしいニュースが報じられました。

 国立がん研究センターなどが、早期の大腸がんにESDと呼ばれる新しい内視鏡治療の効果を調べた結果、5年生存率が94%に上ったのです。従来の内視鏡治療に取って代わり、標準治療になるかもしれません。

 従来の内視鏡治療は、がんやポリープの根元に直径2~3センチのスネアという金属製の輪をかけて切除します。スネアの大きさに制限されるため、従来の治療対象は「最大径が2センチ未満」が原則でした。

 治療の安全性が高く、短時間で治療できるため、外来で行うことができます。内視鏡検査でポリープなどが見つかると、2センチ未満ならその場で切除することも可能。読者の皆さんも、大腸内視鏡検査での切除を経験したことがあるかもしれません。あれが、従来の内視鏡による切除ですが、大きさによってはがんの取り残しのリスクがあり、再発率が10%以上と高いことが課題でした。

 ESDは、内視鏡に装着した高周波ナイフでがんの周りの粘膜を切り、その下部にある粘膜下層を薄くはぎ取ることで、がんを切除します。内視鏡を扱う医師が、切除する範囲や形を思い通りに決められるため、2センチ以上の病変を切除することができるのです。

 今回、国立がん研究センターなどのグループは2013年から2年間、ESDを受けた1883人を登録。その結果、5年生存率は93.6%。8人(0.5%)に再発が認められましたが、いずれも内視鏡で切除できています。従来の内視鏡に比べてESDは、がんの取り残しが少なく、再発リスクも低いことが明らかになったのです。

 大腸の壁は2~3ミリと胃の半分ほどの薄さ。ちょっとした操作ミスが、出血や穿孔(せんこう)につながりますから、そこを薄くはぐのは高い技術が必要なのです。

 今回の研究では穿孔が2.9%、出血が2.6%に認められたものの、多くはそのときの追加処置で対処できていて、外科手術が必要だったのは0.5%でした。

 ESDは、外科手術より肉体的負担が少なく、その適応は早期の大腸がんです。便潜血検査を毎年きちんと受けて、早期発見を心掛けることが大切です。その上でESDを受けるなら、年間症例数が多い医療施設を選ぶこと。具体的には、各地の大学病院やがんセンターなどがん診療連携拠点病院が無難です。クリニックなどでは、穿孔や出血の対応ができない恐れがあります。

 もうひとつ、ESDが難しいといわれたケースは消化器内科でのセカンドオピニオンを取るとよいでしょう。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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