痛みのない暮らしを取り戻す

慢性疲労症候群に「星状神経節ブロック注射」が効果的なケースも

写真はイメージ
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 多くの痛みは内科的に鎮痛薬でかなり改善されますが、鎮痛剤がほとんど効かない、原因が不明といった頑固な痛みに対しては、神経ブロック注射で症状が改善することが珍しくありません。

 代表的なブロック注射は、この連載でも何度も登場した「星状神経節ブロック」と「硬膜外ブロック」です。星状神経節とは星形の頚部にある交感神経節に麻酔薬を注射する方法で、顔面、頭部、頚部、上腕といった胸から上の症状に有効。背中から脊髄に注射する硬膜外ブロックは、主に腰痛や下半身の痛みの治療に用います。

 実は神経ブロックは痛みだけではなく、原因不明の疾患にも使える療法です。そのひとつに「慢性疲労症候群」があります。慢性疲労症候群を診断する主な基準は、「生活が著しく損なわれるような強い疲労が主症状にあり、その状態が6カ月以上の期間にわたり持続したり再発を繰り返す」とあります。最近では、新型コロナウイルスに罹患した人の後遺症として注目されている病態でもあります。

 慢性疲労症候群になると、仕事、家事はもとより、食事をすることや、トイレに行くことすら難しくなる人もいます。そのほかにも、微熱、咽頭炎、頭痛、関節痛、筋肉痛、しびれ、頚部リンパ節の腫れ、抑うつ、思考力低下、睡眠障害などさまざまな症状を伴います。

 その原因はウイルス説、自律神経異常説、自己免疫説、ホルモン異常説などさまざまな説があるものの、メカニズムはまだ明らかになっていません。ところが、診断のつきにくい疾患のため、患者さんはあちこちの病院を回って、血液・尿検査、エックス線、心電図、CTなどを受けても異常が見つからないため、はっきりとした病名がつかないという悩みを抱える場合があります。

 慢性疲労症候群に星状神経節ブロックで効果を見せた例として、買い物にまったく行けなかった人や、万年床だった人が少しずつ良い兆しを見せて通常の生活に回復していった、というようなケースがあります。

 慢性疲労症候群の薬剤治療としては、鎮痛剤、ビタミン剤、抗不安剤、睡眠薬、漢方薬が処方されます。再び症状が繰り返されることも多く、認知行動療法、段階的運動療法なども治療の選択肢になっています。視床下部の血流改善がされる星状神経節ブロックが、慢性疲労症候群の治療において大きな役割を担えるのではないかと、期待しています。

西本真司

西本真司

医師になって34年。手術室麻酔、日赤での緊急麻酔、集中治療室、疼痛外来経験後、1996年6月から麻酔科、内科のクリニックの院長に。これまでに約5万8000回のブロックを安全に施術。自身も潰瘍性大腸炎の激痛を治療で和らげた経験があり、痛み治療の重要性を実感している。

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