がんと闘うための「心構え」…動揺や不安を抱えたまま大きな決断をしてはいけない

担当の方針を参考にして、自分で情報を集めることも大切だ
担当の方針を参考にして、自分で情報を集めることも大切だ
①その場で治療法を決断しない

「がん」と診断されたとき、ほとんどの患者は動揺し、大きな不安を抱える。2人に1人ががんになる時代、いつ自分がその立場になってもおかしくない。万一に備え、がんと闘うための“心構え”を覚えておきたい。

 ◇  ◇  ◇

 がんと告知されたとき、多くの人は混乱し、平常心ではいられなくなる。そんな状態で、治療法を選択したり、場合によっては治療を受ける医療機関を決断するのは難しい。

 都立駒込病院名誉院長で腫瘍内科医の佐々木常雄氏は言う。

「がんの治療では、最初の治療法の選択が非常に重要です。ですから、がんを告知されて動揺している中、自身のがんに関する情報も少ない状態で、重要な決定をするのはおすすめできません。結果的に誤った決断をしてしまう可能性があるからです。告知の際、医師から治療方針を説明され、治療法の選択や手術の予約を促されることも多いのですが、緊急性がなければその場では何も決めずにまずは自宅に帰り、がんに関する情報を集めたり疑問点を整理し、あらためて担当医の説明を聞いたうえで、しっかり納得してから決断するべきなのです」

「うろたえないガン治療」の著者でがん難民コーディネーターの藤野邦夫氏はこう言う。

「がんと告知されたら、すぐに治療法を医師任せにしてはいけません。『体に何が起こっているか』『どんな治療法が実施されているか』『主治医の最初の判断に誤りがないか』『自分のがんに合った、より負担の少ない有効な治療法はないか』などの情報を集め、場合によっては病院や医師を選ぶ必要があります」

 病院や医師を選択する際、確実な基準のひとつになるのが、自分のがんの治療例や手術例の件数だという。国立がん研究センターの全国188の病院に関する発表(2017年)によると、肺がんの手術例の多い病院では5年生存率が約70%だが、少ない病院では2.3%だった。年齢や進行度を考慮していない数値とはいえ、治療例や手術例の多い・少ないは、治療成績に大きく関係すると考えたほうがいい。

 そうした情報は各病院のホームページで確認できる。また、インターネットやSNSでは玉石混交の情報が飛び交っているので、がん情報を集める際は「国立がん研究センター」や「公益財団法人がん研究会」など信頼できるサイトを参照したい。

まずは現時点で最良である「標準治療」を信頼して治療に臨む
まずは現時点で最良である「標準治療」を信頼して治療に臨む(C)日刊ゲンダイ
②「標準治療」を信頼する

 がんの治療法を選択する際、必ず耳にするのが「標準治療」だ。現在は「手術」「化学療法(抗がん剤)」「放射線治療」の3大治療が基本になっている。

「標準治療というのは、科学的根拠=エビデンスに基づいて、現時点で実施できる最良の治療であることが示された治療のことです。大規模な臨床試験の結果から、有効性が高いことや、副作用の不利益についてもしっかり検討したうえで、一般的な患者さんへの実施を推奨できると専門家が判断した治療が標準治療となります。それぞれの学会が作成した診療ガイドラインで定められています。日本のがん医療は、標準治療とガイドラインの普及によって全体の治療レベルが明らかに向上しました。決して“並でそれなりの治療”ということではないのです」(佐々木氏)

 がん治療では、まずは現時点で最良である標準治療を信頼して、治療に臨むのが基本となる。ただし、たとえ標準治療が効かなくなった場合でも、それで「もう治療法がない」というわけではない。

「現在はまだ標準治療にはなっていなくても、しっかりした臨床発表で良好な結果が示されている治療法もあります。もちろん、患者の不安につけこむような医学的根拠のない民間療法や代替療法ではありません。標準治療に効果がなくなった時点ですぐに緩和医療をすすめられる場合もありますが、医師と患者は、他に適応となる治療法はないか、その病院ではできない治療でも他の施設では可能な方法などについて、一緒に真剣に考えていくべきです」(佐々木氏)

③仕事はやめない

 東京都のがん患者調査によると、がんと診断されたときにすでに就労していた人の24.7%が退職している。

 さらに、その後再就職をしていない人の約77%が自ら退職を決めたという。その理由として、がんと診断された患者は、周囲に迷惑をかけたくない、あるいは体力面で就労継続が困難であると悩みながらも、どこに相談すればよいか分からず、医療機関や職場に相談する前に離職を選択してしまう場合があると報告されている。

 また、がんと診断された従業員が治療と仕事を両立できる職場環境を整備できていない企業があるのも理由のひとつだという。実際、厚労省の調査では、がんの診断後に約4%の人が解雇され、約30%の人が依願退職しているとの報告がある。

「日本では、がんに罹患する人は2人に1人、そのうち3人に1人は就労可能な年齢です。1年間に新たにがんと診断された人は約100万人で、いまは入院せずに外来で治療している人も増え、働きながら治療を続けることも可能になってきました。家族を養うために働かなければならない患者もたくさんいますが、経済的な面だけでなく、仕事を続けることは“張り合い”という意味でも治療の支えになります。がんと診断されても、不安な気持ちから退職を選択しないでほしい」(佐々木氏)

 2016年、がん対策基本法の一部改正により、事業主の責務として、がん患者の雇用の継続などに配慮するよう努めることが新たに規定された。また、日本対がん協会は「通院しながら」「会社や病院と相談しながら」働く患者を「ながらワーカー」として支援している。

 現在は多くのがんで仕事を続けながら治療を行うことが可能になっている。告知に動揺して「治療に専念する」という思いにとらわれ、早まって仕事をやめてはいけない。

④相談支援センターや患者会を活用

 がんや治療についての正しい情報を入手したり、疑問、不安、悩みがあるようなら、「がん相談支援センター」を利用するといい。がん拠点病院や認定病院などに設置されていて、他の病院に通院している患者や、その家族でも相談に乗ってくれる。

「支援センターには、看護師、医療ソーシャルワーカーなど専門の相談員が常駐していて、がんや治療法などの一般的な情報提供や療養生活に関する質問や相談に、対面や電話で対応してくれます。混合診療(保険診療と保険外診療)、世帯合算、限度額適用認定証、高額医療・高額介護合算療養費制度、無料低額診療制度や、さらには休職時の傷病手当金、復職や就労の継続といったさまざまな相談を受け付けています。ハローワークからの出張相談を行っている病院もあります。いずれにしても、まずは相談してみることをおすすめします」(佐々木氏)

 また、がん相談支援センターでは、「患者会」や「患者サロン」を紹介してもらえる。

「患者会では、病院や医師に対する“本音”の評価や、当事者だからこそ分かる本当に有効な治療情報などを聞ける場合があるので積極的に利用したい。患者会に関しては、支援センターだけでなく、自治体の役所の窓口や病院の看護師、地元のケアマネジャーなどからも教えてもらえます」(藤野氏)

 がんに対する不安は、ひとりで抱え込まないことが大切だ。

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