認知症治療の第一人者が教える 元気な脳で天寿を全う

近年注目の「脳腸相関」で腸内フローラを整えて認知機能低下を防ぐ

写真はイメージ
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 9月21日は「世界アルツハイマーデー」。1994年のこの日、スコットランドのエディンバラで第10回国際アルツハイマー病協会国際会議が開催されたことから、国際アルツハイマー病協会と世界保健機関(WHO)が共同で世界アルツハイマーデーを制定し、9月21日を中心に認知症の啓蒙を実施するようになりました。

 2012年からは9月を「世界アルツハイマー月間」と制定し、全国各地でさまざまな取り組みが行われるようになりました。私が院長を務める「アルツクリニック東京」が監修する「健脳カフェ」では、森永乳業主催で、1カ月間限定の「記憶対策アカデミーin 健脳カフェ」(無料、事前申込制)を開きます。

 毎週金曜日、夕方6時半から1時間半、認知症対策のために役立つ知識を学ぶ“アカデミー”です。内容は大きく分けて3つ。まず、私が担当する記憶対策のための講義。次に科学的な根拠から開発された記憶力を高めるエクササイズ。これは、みんなで行います。そして、栄養士による、記憶力を落とさないために実践すべき食事などの紹介です。

 特に来てほしいと考えているのは、40~50代。夕方から夜にかけて行うことにしたのも、これら働く世代が仕事終わりに参加して欲しいからです。

 認知症対策をテーマとした講演会や勉強会、市区町村の催し物となると、参加者のほとんどがご高齢の方々。同年代に認知症を発症する方が出てきて、ようやく「自分のこと」として捉えられるからでしょうが、この欄で幾度となく紹介しているように、本気で認知症を回避したいなら、認知症の発症年齢になってからでは遅いです。

 認知症の大多数を占めるアルツハイマー病の原因物質、アミロイドβは20年以上かけてゆっくりと蓄積されます。アルツハイマー病の発症年齢は、平均65~80歳。早い人では40代から蓄積し始めているのです。

 もちろん、蓄積してからでも対策はありますが、蓄積する前と後とでは打てる対策の数に開きがありますし、効果の度合いも違うと考えられます。世界的な医学雑誌ランセットでは、認知機能低下リスクの早期予防という観点からは、自身の物忘れに気づく40~50代のうちに対策を始めることが有効と提唱しています。

■権威ある世界的な医学誌で論文報告

 今回の「記憶対策アカデミー」の目玉のひとつが、腸と脳の関係(脳腸相関)を軸とした認知症対策の知識を学べること。

 腸内フローラ(腸内細菌叢)という言葉を聞いたことがある人は多いでしょう。腸内フローラを整えて免疫力を高め、病気になりにくい体をつくろう、とよく言われています。さらに近年は、腸内フローラは認知機能にも密接にかかわっていることが明らかになってきているのです。

 2020年には、神経学の専門雑誌「ランセット・ニューロロジー誌」に、アルツハイマー病、多発性硬化症、パーキンソン病、脳卒中といった神経疾患と腸内細菌が関連していることを示す論文が発表されています。

 また、アルツフォーラムという世界的に権威ある認知症に関するデータベースで、唯一掲載されているプレバイオティクスのサプリメントが、ビフィズス菌MCC1274。エビデンス(研究成果)として最も信頼が置けると考えていいわけですが、このビフィズス菌MCC1274は、やはり脳腸相関に関わるものです。ビフィズス菌MCC1274で腸内環境を整えると、細胞レベルの研究でアミロイドβがたまりにくくなるとの結果や、人では海馬萎縮を防ぐといった結果が得られています。

 腸内フローラを左右するもの。それは言うまでもなく、食事内容です。食事は日々の積み重ねですから、正しい知識を持ち、実践していくことで、有効な認知症対策になります。「記憶対策アカデミー」でぜひ、“今日から始める認知症対策”を学んでください。

「記憶対策アカデミーin 健脳カフェ」の問い合わせはkiokutaisaku@prinfo.jp、申し込みはhttps://kioku-taisaku.apage.jp/まで

新井平伊

新井平伊

1984年、順天堂大学大学院医学研究科修了。東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員、順天堂大学医学部講師、順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学教授を経て、2019年からアルツクリニック東京院長。順天堂大学医学部名誉教授。アルツハイマー病の基礎と研究を中心とした老年精神医学が専門。日本老年精神医学会前理事長。1999年、当時日本で唯一の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。2019年、世界に先駆けてアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を導入した。著書に「脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法」(文春新書)など。

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