痛みのない暮らしを取り戻す

星状神経節ブロックで視床下部の血流が改善され免疫系も正常に

交感神経の過緊張による疾患の多くは血管の収縮に関係している(写真はイメージ)
交感神経の過緊張による疾患の多くは血管の収縮に関係している(写真はイメージ)

 星状神経節ブロックで視床下部の血流が改善されると、自律神経、免疫、ホルモンのバランスが良くなることは、この連載で何度も述べてきました。

 頚部にそんな役割がある神経節があると発見したことにも驚きですが、そこに局所麻酔薬を入れる治療に初めてトライした先駆けの先生方の多大な努力に感心します。

 この治療法を確立された若杉文吉先生は、30年以上も前に、さまざまな難病に対して、「交感神経の過緊張自体がその原因のひとつだ」という理論を発表されました。交感神経の過緊張による疾患の多くが血管の収縮に関係していて、難病のうち7~8割がこれにあたるといえます。

 免疫系とは、生体を守る防御部隊で、白血球がその任務についています。免疫機能の異常は「反応不良」と「反応過剰」に分けられます。人体の中には体外から異物が侵入してきたり、体内に異物ができたりすると体はそれに対抗するものを作って排除しようとします。

 異物のことを「抗原」といい、対抗するものを「抗体」と呼びます。抗原と抗体との闘いを「抗原抗体反応」や「免疫反応」といいます。抗原に対して抗体を作った方がいいのに、十分に作れない、しっかりと対応できない状態が「反応不良」です。体の外から入ってきた抗原(細胞やウイルスなどの病原体)に対する反応不良がインフルエンザやSARS、新型コロナウイルスなどの感染症であり、体内に生じた抗原(がん細胞)に対する反応不良が悪性腫瘍、すなわち、がんとなります。

 一方、抗体など作らなくてもいいのに作ったり、反応し過ぎたりするのが「過剰反応」で、対外からの抗原(花粉やダニ、化学物質、環境ホルモンなど)に対する過剰反応が、喘息(ぜんそく)、花粉症、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患になります。

 そして、体内にある組織に対して、それを異物(抗原)と錯覚し、誤って抗体を作る過剰反応が自己免疫疾患といえます。それが関節中心に反応したのがリウマチであり、大腸粘膜なら私が体験した潰瘍性大腸炎となります。

 これらの治療には、副腎皮質ホルモン(ステロイド)が症状を和らげますが、対症療法にしかならないこともわかっています。一方、星状神経節ブロックや頚部硬膜外ブロックの治療を行うと、中枢である視床下部での血流が改善され、免疫系も正常に働きます。私は、神経ブロック治療が難病や原因不明の病気で悩んでいる患者さんにとって希望の持てるものになると考えています。

西本真司

西本真司

医師になって34年。手術室麻酔、日赤での緊急麻酔、集中治療室、疼痛外来経験後、1996年6月から麻酔科、内科のクリニックの院長に。これまでに約5万8000回のブロックを安全に施術。自身も潰瘍性大腸炎の激痛を治療で和らげた経験があり、痛み治療の重要性を実感している。

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