Dr.中川 がんサバイバーの知恵

桑野信義さんが投稿 大腸がん手術後の排便障害はオムツでもつらい

桑野信義さん
桑野信義さん(C)日刊ゲンダイ

 がん統計の正確な数値は、罹患(りかん)数が2、3年、死亡数が1、2年遅れて公表されます。これを数学的に補正して、その年の数値を予測するデータもあり、2022年の罹患数予測トップは大腸がん。大腸がんは死亡数予測でも肺がんに次ぐ2位です。

 急増する大腸がんのサバイバーとしてタレントの桑野信義さん(65)がこんなことをブログに投稿しています。

「排泄(はいせつ)障害だから、これが始まるとトイレに何往復もするんだ。家にいるときじゃないと大変。いくらオムツしててもさ」

 医学的には排便障害と呼ばれるもので、手術後の後遺症の一つ。多くは残便感が強くなり、トイレから出てもすぐトイレに逆戻りで、トイレを行ったり来たり。生活しているときに突然便意を催してこらえきれずに漏らしたり、就寝中に漏れたりすることもあります。桑野さんが語るようにオムツが欠かせません。

 桑野さんは昨年2月にがんの摘出手術を受けてから3カ月ほど人工肛門を装着。なぜわざわざ人工肛門にするかというと、切除部位の縫合不全を避けるのが一つ。その部位より上流に人工肛門を設置することで、腸の内容物が送られず、縫合部の安静を保つことができます。もし縫合不全が起きても、その後の腹膜炎が軽く済むのです。

 ですから、排便障害は人工肛門が外れてから発症します。外れると、皆さん自前の肛門で排便できることに喜びますが、排便障害が発症すると、「人工肛門の方が楽だった」と嘆く人もいるのが現実。大人にとって便を漏らすのはつらく、外出をためらわざるを得なくなるためです。

 症状には程度の差がありますが、がんが肛門から5センチ以内に起こりやすく、肛門に近いほどリスクが大きくなります。その近くには、排尿や性機能にかかわる神経も通っていて、手術でそれらの神経も障害されると、排尿障害や性機能障害が生じることもあります。

 大腸は、小腸を上から囲うように存在し、右側から上行結腸、横行結腸、下行結腸と連なり、S状結腸を経て直腸に区分され、肛門に続きます。「結腸」と称される部分では、排便障害などの障害に悩まされるリスクは非常に低い。手術後の後遺症は、大腸がんの発生場所が関係するということです。

 しかし、そんな直腸のがんであっても、早期発見できれば、後遺症のリスクを減らすことができます。排便障害は、残された直腸が短いほど影響が大きいため、早期発見で内視鏡切除なら、より長く直腸を温存できるためです。内視鏡は腸管内の手術ですから、その外にある排尿や性機能の神経がダメージを受けるリスクも少なくなります。

 桑野さんは便に血が混じっているのを見つけながら、すぐ検査を受けず診断時はステージ3b。1年に1回の検便に加え気になる症状があれば内視鏡検査をためらわないこと。ステージ1の大腸がんは、5年生存率が98%。ほぼ治るのですから。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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