クスリを使って糖尿病を治療している人に必ず知っておいてほしいのは、「低血糖」の症状と対処法についてです。血糖値が高い状態が続くことは将来的な動脈硬化などのリスクになりますが、今すぐにどうこうなる話ではありません。しかし、低血糖を起こすとすぐに命の危険に陥るケースもあるので、注意が必要なのです。
一般的に、低血糖とは血糖値が70㎎/デシリットル以下になっている状態のことをいいます。症状としては、異常な空腹感、冷や汗、動悸(どうき)、ふるえ、倦怠(けんたい)感(=だるさ)などが代表的なものとなります。
低血糖がさらに進み、血糖値が50を下回った状態を「重度の低血糖」といい、眠気、めまい、集中力の低下、ものが見えにくいなどの神経症状が出てきます。さらに血糖値が30以下になると、意識がもうろうとしたり、けいれん、昏睡を起こし、最悪の場合は死に至ることもあります。高齢者は若年者に比べて低血糖を起こしやすいとされているため、とりわけ注意してください。
血糖値を下げる作用がある糖尿病のクスリを使っていると、低血糖のリスクはどうしてもつきまといます。ここで問題になるのは、症状の出方が患者ごとに大きく異なることです。冷や汗が出る人もいれば出ない人もいますし、いっぺんに複数の症状が出る人ももちろんいます。
一番困るのは、まったく症状が出ない人もいることです。冷や汗やふるえなどの症状がある場合は、すぐに対処ができます。しかし、中にはいきなり意識障害から始まる人もいて、私もこれまでに数例の患者さんで経験しています。低血糖は、みなさんが考えている以上に体に負担がかかっています。ですから、速やかな対処が重要です。
低血糖を起こした場合の対処法は、「糖質を摂取して血糖値を上げる」ことです。アメやジュースなど糖分を含むものを摂取してしばらく休んでいると、比較的速やかに低血糖の症状は改善します。ただ、クスリの種類によっては普通の糖質ではなくブドウ糖を摂取しなければならないものがあるので、クスリの説明書をしっかり読んで確認してください。
そして、いつ低血糖が起きてもすぐに対処できるよう、外出する時などには必ずアメやブドウ糖を持ち歩くようにしましょう。車の運転中に症状が現れることも十分考えられるので、そうした場合には路肩に駐車したうえで対処してください。ただ、こうした対処は低血糖が進んで意識障害まで起こしていると、当然ながら自分自身では行うことができません。そのままにしておくと、命の危険を招いてしまいます。ですから、必ず家族、友人、同僚といった周りの人に低血糖の症状と対処法を必ず伝えておき、万が一、自分で対処できない状態に陥ったときには、周囲の人に行ってもらえるようにしておくことが大切です。
次回も低血糖についてお話しします。