がんと向き合い生きていく

ステージ4の前立腺がんでも抗がん剤が劇的に効くことも

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 前立腺がんで治療を受けている男性のお話です。

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 58歳、自営業です。生来、元気に過ごしてきました。市からくる一般健診は1~2年に1回受けていましたが、この3年ほどは病院に行っていませんでした。

 2カ月前から、背中の右側、腰、肩などが時々痛むことがありました。ただ、その痛みは長く続くこともありません。コロナ禍もあって、外に出ない生活、運動不足のせいかなと思って過ごしていました。それでも時々同じところが痛み、一日何回も痛むこともあって、病院で調べてもらおうと考えました。

 こんな症状の時は何科を受診すればいいのか?内科か整形外科かと迷ってネットで調べてみると、C病院には総合内科というのがあったのでそこを受診することにしました。担当になった医師に病状を話すと、採血と採尿のほかに、胸部X線、胸と腰椎のX線写真を撮って待つように言われました。

 およそ2時間後、診察室に呼ばれ、「肺に腫瘤の影があります。胸椎、腰椎の骨にも問題がありそうです。詳しく調べてみましょう」と言われました。「がんでしょうか?」と尋ねると、「その疑いがあります」との答えでした。それで1週間後、採血の追加検査、肺のCT検査、骨シンチグラムの検査が行われることになりました。

 がんの疑いと聞いて、愕然としました。2人に1人はがんになる時代と聞いていましたが、とうとう自分にもきたか。それにしても肺と骨にがんがあるとすると、もう、末期なのかもしれない……。仕事をどうするか、離れて暮らしている息子にはいつどう話すか、お墓は、お金は……いろいろな思いが頭の中を堂々めぐりして、不安が募りました。

 それでも、「まだがんと確定したわけではない。検査が終わってから考えよう。良い結果だってあるかもしれない」と、自分で自分を励ましていました。

 翌週、検査を終えた3日後にその結果を聞くことになりました。総合内科の担当医から、「肺には腫瘤が3カ所あって、がんの転移が考えられます。骨にも何カ所か転移と思われる影があります。それから、PSAという前立腺がんの腫瘍マーカーが異常に上昇しています。前立腺がんが疑われます。泌尿器科を紹介しますから診てもらってください」と説明を受けました。

 私は「やっぱりがんだったか……それにしても、まさか前立腺がんとは考えもしなかった」と思いながら、「どれくらい生きられますか?」と尋ねてみました。すると、「もしがんで、転移があってステージ4だとすると、短いこともありうるかもしれません」と曖昧な答えが返ってきました。

 翌週、紹介された泌尿器科を受診しました。泌尿器科の担当医は、さっそく前立腺の生検を行ってくれました。その組織検査の結果は7日後に分かり、一部悪性度が強いところもある前立腺がんであることが確定しました。

■PSA値が急激に下がった

 そして、その翌週から3週間に1回のドセタキセルという抗がん剤の点滴治療と、ホルモン療法が開始されました。幸い、治療開始から1カ月後のPSA値は急激に下がり、2カ月後のCT検査では肺転移の影も明らかに小さくなっていました。ドセタキセルの点滴は合計6回行われ、現在はホルモン療法を続けています。PSA値は正常値となり、肺の転移はほとんど消えています。

 あれから1年過ぎた今では、背中の痛みもなく、ウソのように元気な毎日です。

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 前立腺がんは、限局期(がんが転移していない状態)の場合は「監視療法」といって、治療せずに経過をみることもあります。病期によって、手術による前立腺全摘除術、放射線治療、ホルモン療法、抗がん剤治療などが行われます。

 進行している前立腺がんでも、この男性のように劇的に効くことも実はまれではありません。多くの場合で薬物治療は有効ですが、どのくらいの期間、何年効いてくれるのか、予後は個人個人でさまざまです。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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