老親・家族 在宅での看取り方

すべて自分でやろうとしない 利用できるサービスは利用を

写真はイメージ
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 まだ家族に療養が必要な患者はいないけど、いずれは家族の誰かが医療サービスを受けることになるかもしれないと、将来を心配されている方は多いはずです。しかしほとんどの方は明確なイメージを持たぬまま、ただ漠然とした不安だけを抱え、それでも心の備えもなく日常を過ごされていることでしょう。

 一般的に病気になったとき、その程度や状況に応じて治療を受ける方法は3パターンです。

 まずは通院があります。当然ながら比較的軽症であり、通院できる体力もあり、ADL(日常生活動作)も高いレベルで維持されている方が大半になります。

 それがやがてなにかのきっかけで低下しはじめると、最初は自分ひとりで通院できていたのが、いつしか家族の介添えがないと病院に通えなくなる。やがて薬をもらいにいくのも大変になってきます。そして病状も悪化すると、ここで初めて入院するか、在宅医療にするかとなるわけです。

 ですが、いまはなんの疑問も挟まずに入院を選択する方が圧倒的に占めているのが現実です。中には病状の急変に慌てて救急車を呼ぶ方も少なくないのですが、この場合は確実に運ばれた病院での入院を余儀なくされてしまいます。そもそも在宅医療そのものを知らない方もいます。

 最近この連載を読まれたという、将来に不安を抱えているご家族から相談を受けました。そのご家族はただちに在宅医療を始めたいということではなく、あくまでも将来の不安に対する備えとしての相談でした。

 家族構成は、78歳の男性と76歳の奥さまのご夫婦、奥さまのお母さま、そして老猫。お母さまは99歳でほぼ24時間寝たきりです。介護は奥さまがされています。

 奥さまは昔は音楽活動をされており、お母さまはステージママとして活動的な生活をされていた仲の良い母娘。ですから大好きなお母さまの面倒をみるのは苦ではないとおっしゃいます。

 それに自分でやることにこだわるご性格のようで、在宅医療でなくても他の人が手助けしてくれることに少しネガティブな感情をお持ちのご様子。

 ですが本音のところをお聞きすると、最近は慢性的な睡眠不足で、いまはいいけど将来が不安だともおっしゃいます。

 明らかにこの先、患者さんだけでなくご家族のQOL(クオリティー・オブ・ライフ=生活の質)が低下していくことは明らかでした。

 たまにはご夫婦で外に出かければ気分転換になっていいのではないかと伝え、また、患者さんが一時的に入院し、介護するご家族の負担を軽減するレスパイト入院や、デイサービスなどの介護サービスの利用も提案しました。

 介護を長く続けるためのコツはなんでしょうか。それは20年や30年と続く場合もある介護で、なによりも無理せず、その家計に合わせたサービス内容とコストのバランスを取ることです。またご家庭のキャラクターに合わせて、のんびりやりながら長続きできるようにするのが大切になってくるのです。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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