認知症治療の第一人者が教える 元気な脳で天寿を全う

「生涯健脳相談士」「生涯健脳指導士」は認知症予防のサポーター

写真はイメージ
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 いまは、認知症予防に努める時代。予防には、発症させない1次予防、発症を遅らせる2次予防、発症しても進行を遅らせる3次予防があります。

 現段階では1次予防につながる薬がまだ登場していないので、力を注ぐべきは2次予防となる生活習慣。認知症の前段階として主観的認知機能低下(SCD)や軽度認知障害(MCI)がありますが、私のクリニックではこれらの方に2次予防を指導しています。それによって認知機能が改善する人が少なくありません。薬を使っていないのに、です。

 2次予防が有効であることは複数の論文で確信していましたが、SCD、MCIの方々の変化を目の当たりにして、2次予防をいかにして適切なタイミングで取り入れるか、その重要性を、改めて感じています。

 認知症予防をスムーズに行うために、一般社団法人「生涯健康社会推進機構」が新たに立ち上げたのが、認知症予防に軸足を置いた新たな資格検定制度です。私は、監修者として関わっています。資格には、初級の「生涯健脳相談士」と上級の「生涯健脳指導士」の2種類があり、9月27日から受験申し込みが開始となります(https://shogaikenno.jp/)。

 認知症の考え方として、かつては、健常者か認知症か、の2つでした。それが、認知症の研究が進むにつれ、「健常者→自分だけが物忘れなどに気づくSCD→周囲が物忘れなどに気づき始めるMCI→仕事や家事などに影響が出る認知症」の4つで捉えられるようになりました。

 2次予防では、SCDやMCI、もっというなら健常者の段階から取り組むのが理想。私たち医師がいくら「認知症は2次予防が大切です」と考えていても、病院に来てもらわないことには積極的な対策を講じることができませんからね。

 SCDやMCIでは、病院にはなかなか来てくれません。来てくれたとしても、認知症予防に力を入れている医療機関でないと、「様子をみましょう」で終わってしまうかもしれません。そして、予防に力を入れているところは少ないのが実情です。このように認知症予防の重要性がなかなか一般の方に届かないのが現状です。

■「ちょっとした変化」に気づいて対応

 国の政策として厚労省が養成講座を開いているものに「認知症サポーター」がありますが、これは認知症と診断された人のケアをするもの。

 一方、生涯健脳相談士と生涯健脳指導士は、軽い物忘れが気になった時(認知症と診断される前)に、気軽に相談できる役割を担います。いわば認知症予防のサポーターです。

 初級の生涯健脳相談士には、ドラッグストア、コンビニ、スーパー、金融・保険業、住宅産業、宿泊業など、SCD・MCI・認知症の方と接する機会の多いサービス業の従事者に取得してもらうことを想定しています。また、上級の生涯健脳指導士は、相談士からのステップアップを望む人と共に、医療・介護・行政の専門職が対象で、相談士の役割に加え、認知症の2次、3次予防の実践的医学的指導ができる資格としています。

 スーパーの店員さんが、普段からよく来てくれるお客さんのちょっとした変化に気づく。今までは身ぎれいにしていたのに服装が無頓着になったり、会話のやりとりがおかしかったり、支払いの計算間違いが増えたり……。

 1、2度なら問題ないでしょうが、「ちょっとした変化」が続いているといったとき、生涯健脳相談士としての知識から、さりげなく声をかけ、その方の心配事を聞き出す。認知機能の低下が疑われるようなら、医療機関への相談を勧める。そういうやりとりが日常のあちこちで繰り広げられるようになったら、認知症にまで移行する人が減少するのではないかと期待しています。

新井平伊

新井平伊

1984年、順天堂大学大学院医学研究科修了。東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員、順天堂大学医学部講師、順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学教授を経て、2019年からアルツクリニック東京院長。順天堂大学医学部名誉教授。アルツハイマー病の基礎と研究を中心とした老年精神医学が専門。日本老年精神医学会前理事長。1999年、当時日本で唯一の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。2019年、世界に先駆けてアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を導入した。著書に「脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法」(文春新書)など。

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