がんと向き合い生きていく

白血病や悪性リンパ腫に対して1回だけで済む治療法がある

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 新型コロナの流行が続いてもう3年になります。マスクの着用、手の消毒はやっていても、人流を制限しないで、本当に大丈夫なのだろうか?毎日、夕方のテレビで報じられる感染者数も気になりますが、亡くなる方がたくさんおられます。この冬に向けて大丈夫なのか、国の対策は万全なのかとても心配です。

 私は、がん専門医として抗がん剤治療に明け暮れてきました。40年前、私たちは「30年後、あるいは40年後には、がんは解決しているだろう。きっと40年もたったら、すべてのがんは薬で治る時代になっているだろう。私たちのがん治療の仕事はなくなる」と、そんな漠然とした夢を描いていました。

 急性白血病になった患者さんには、我慢して、我慢して治療を受け、治った方もたくさんおられます。残念ながら亡くなった方もおられます。白血病を克服し、その後、抗がん剤治療の影響がなくなって卵巣機能が回復し、妊娠、出産を経てお子さんに恵まれた方もたくさんおられます。慢性白血病では内服治療で効果のある方は、長期生存が可能となりました。

 しかし、すべてのがんはそう簡単には治ってくれません。固形がんで、手術で切除できればいいのですが、進行したがんでは、転移があってそのようにはいかないことも多くあります。

 がんの薬物治療においては、抗がん剤の時代から分子標的治療薬、そして免疫チェックポイント阻害薬(ICI)と免疫治療の時代へ進んできました。末期的病状の方でも、起死回生、元気で長く生きる方も増えてきました。

 ICI治療では、うまく効いて検査画像からがんが消えた方もたくさんおられます。たとえば、2回のICI治療で肺の影が消え、1年ほど治療を続けてからやめたら再発し、また治療を開始したら再度消えた方がいらっしゃいます。がんが消えてからさらに何回治療すればいいのか、治ったと言えるのか。それが分かるには、まだ時間がかかるのではないかと思います。

■がんが消えたら完治したといえるのか

 何か夢のある新しい治療法がないものか……探しているうちに、こんな治療法がありました。特殊ながんに対してですが、たった1回の治療に対して保険適用が認められている治療法です。たった1回だけなのです。

 再発または難治性のCD19(がん細胞の表面にある抗原)陽性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫、B細胞性急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)に対しての「CAR-T療法」という治療です。

 患者さん自身のリンパ球の中のT細胞(免疫細胞)を取り出し、遺伝子改変操作でCAR(キメラ抗原受容体)と呼ばれる特殊なタンパク質をつくり出すことができるようにしたうえで、このCAR-T細胞を患者さん自身に投与するのです。これは、たった1回だけの治療です。

 私は、2年前にこの治療法でがんが消えた方がいるという報告を知りました。

 薬価が3300万円以上という高価な治療法ですが、たった1回だけの治療です。その時点でがんの塊が消えたとしても、その患者さんはそれで大丈夫、完治したのだろうか? そんな疑問について、最近、CAR-T療法を担当している医師に聞いてみました。すると、こんな回答が返ってきました。

「がんが消えて、長期に生存されている方もおりますが、再燃される方もいらっしゃいます。長期生存者が根治しているのか、免疫による寛解なのかは判断ができないところがあります。再燃の機序として、CD19消失やCAR-T細胞への耐性が言われています」

 このように、たった1回だけの治療でがんが消える治療法もあるのです。こうした治療法が他のがんでも可能になることが期待されます。

 がんの種類によって、進行状況によって、いろいろな治療法を選択できる時代になってきました。抗がん剤治療の後は緩和医療への移行ということばかりではなく、がん征服へ、やはり希望は持ちたいものです。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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