高齢で動脈硬化が進んでしまうと、さまざまな病気の原因になります。心疾患のひとつである狭心症も動脈硬化が原因で起こります。狭心症は心臓に栄養や酸素を送る冠動脈が狭くなることで起こり、発作時は主に胸痛が現れます。
予防が重要で、そのためにさまざまなクスリが使われています。今回お話しする「ニトログリセリン」もそのひとつです。ただ、ニトログリセリンは狭心症の発作を起こさないようにするというよりは、できるだけ早い段階で発作を抑える側面が強いクスリになります。
ニトログリセリンというと、みなさんはどのような印象をお持ちでしょうか? 私が学生の頃、患者さんにアンケートをとったことがあるのですが、多くの方が「爆弾の材料」と回答していました。そして、この印象が要因で発作が起きても使用を躊躇(ちゅうちょ)する傾向がありました。
ニトログリセリンはたしかに少しの衝撃で爆発する危険性がありますが、それは液体のときの話です。狭心症に用いられるニトログリセリンは錠剤なので衝撃を与えても爆発しないようになっています。そこはご安心ください。
もうひとつ知っておいて欲しいのは、ニトログリセリンは副作用が少ないクスリであるということです。ニトログリセリンが血管内に入ると一酸化窒素という物質に変わります。この一酸化窒素が血管を広げる作用を持っていて、それによって心臓の血流をよくして狭心症の発作を改善します。一酸化窒素はもともとわれわれの体の中に存在しています。つまり、ニトログリセリンといっても、実際は「体の中にあるものをクスリとして補充している」くらいのイメージで間違いありません。
前述のアンケートではニトログリセリンの使用時期についても聞きました。すると、多くの方が「発作が起きて少し休んでも症状が治まらなかったとき」に使用すると回答しました。ただじつはこれ、タイミングとしては遅いのです。
胸痛発作が起こっているということは、すでに心臓が悲鳴を上げているということです。狭心症の発作が起きる場合、多くはその前兆があるといわれています。歯に違和感がある、肩がこった感じがする、胸が重たい感じがするなど人によってさまざまですが、そういった前兆が起こった時点でニトログリセリンを使うと、心臓のダメージを最小限に抑えられます。
ニトログリセリンは、舌の下に入れて使う「舌下錠」という形になります。ニトログリセリンは飲み込んでしまうとすべて分解されて効果がなくなってしまいます。しかし、舌の下にある粘膜から吸収されるとそうした分解を回避できるため、効果が発揮されるのです。
ニトログリセリンは安全なクスリであること、できるだけ早く使ったほうが心臓にとって良いことを理解していただいたうえで、適切に使いましょう。