五十肩を徹底解剖する

腹筋と背筋で体幹の筋力を向上させれば肩の痛み対策にも

写真はイメージ
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 五十肩の原因を考えるとき、肩関節そのものだけでなく、肩甲骨と胸郭からなる肩甲胸郭関節の機能にも着目することが大事とこれまで述べてきました。

 ヒトの背骨を脊椎といい、頚椎・胸椎・腰椎の3つの部分からなります。脊椎には生理的な湾曲が存在します。頚椎は軽く前に曲がっています。胸椎は後ろへ、腰椎は前へ曲がっているため、全体ではS字状のカーブを描いています。

 二足歩行をするヒトにとって、S字カーブがある脊椎は、動作に応じてかかる体への負担をバネのように分散させる役割をはたします。脊椎の湾曲を支えるのは骨そのものではなく姿勢を支える体幹の筋肉です。

 私たちは地球で生きているため常に重力に抗せねばなりません。つまり姿勢を支える首や腰の筋肉には常に負担がかかっています。しかし加齢で体力が低下すると、体重を支えきれず脊椎への負担は増加します。

 たとえば腹筋が弱くなると腹圧が入らず、対をなす腰部のバランスまで崩れます。バランスを調整しようと腰背部と腹部の緊張が増し、腰椎を筋肉でガチガチにしてしまいます。すると生理的なS字カーブは崩れ、脊椎の柔軟性は低下し胸椎も硬くなるのです。

 また腰回りの筋肉の一部は、胸郭の下方に付着しています。これらが緊張すれば、胸郭の動きが出づらくなります。

 つまり体幹の筋力低下が原因となり、姿勢や動作の不具合が生じるのです。立ち座りの姿勢が崩れ背中が丸まってしまうと、肩甲胸郭の機能も低下し、肩関節への負担が増えてしまいます。

 目の前の肩のコリや痛みに対し、鎮痛剤や湿布で応急処置するのも大事です。しかしわかっていてもついサボりがちな腹筋や背筋を鍛えることは、コリや痛みを招く原因への対処になりますし、ひいては五十肩治療に有用です。

安井謙二

安井謙二

東京女子医大整形外科で年間3000人超の肩関節疾患の診療と、約1500件の肩関節手術を経験する。現在は山手クリニック(東京・下北沢)など、東京、埼玉、神奈川の複数の医療機関で肩診療を行う。

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