老親・家族 在宅での看取り方

一人暮らしだけど一人じゃない 愛する猫と最期まで過ごしたい

写真はイメージ
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 余命を宣告された。残された時間を、病院ではなく自宅で過ごしたい--。こう言って、在宅医療の相談に来られる方は珍しくありません。大切な家族と共に過ごしたいという方もいれば、一人暮らしの方もいます。

 肝細胞がんを患う75歳の男性は、通院する病院から余命2~3週間と告げられたことをきっかけに、在宅医療を開始しました。

 肝細胞がんは、C型肝炎やB型肝炎、糖尿病や肥満など生活習慣が原因で発症します。C型肝炎ウイルス・B型肝炎ウイルスに感染すると、肝臓の細胞に炎症が起こり、慢性肝炎、肝硬変、肝細胞がんをはじめとする肝臓がんへと移行していきます。肝機能の低下が著しくなると、皮膚や目が黄色くなる黄疸が出たり、むくみ、かゆみ、だるさ、倦怠感などの症状が現れますが、これは症状がかなり進行してから。肝硬変や肝臓がんがあっても自覚症状はほぼありません。肝臓が沈黙の臓器と呼ばれるゆえんです。患者さんの大半は、医療機関での定期的な検診や、ほかの病気の検査などの時に病気が見つかります。

 前出の男性は、ご家族がおらず一人暮らし。お姉さんが東北に、甥っ子さんが南関東に住んでいます。

 聞けば16年の長きにわたって猫の保護活動をしており、家で2匹の猫を飼っているといいます。「いま自宅に戻ったら、孤独死の可能性もありますよ」と病院から説明を受けてもなお、入院ではなく自宅にこだわるのは、家猫のためでもあるということでした。

「お願いします」(私)

「よろしくお願いします。腹痛と足のむくみがあります」(患者)

「そうですね」(私)

「C型肝炎で10年前に病院にかかって、そのとき血液検査とか尿検査して大丈夫だったんだけどね。ある日突然に抗がん剤治療が始まって、頭がパニックになってしまって、言語障害も出たんです。そのうち痰にも血がたくさん出ちゃったりしてね。仲間に救急車呼んでもらったんだけど、コロナで病院が見つからなくて。4時間くらい回ってB病院でどうにかカテーテルをやってくれてさ。後から聞けばそれもこれも抗がん剤の副作用だったんだよね」(患者)

「そうだったんですね」(私)

「人にむくみと黄疸だって言われて」(患者)

「それはお友達に言われたの?」(私)

「そうです。5日くらい前で、A病院まで今日は電車で行ったけどさ、今までは自転車で行ってました」(患者)

「すごいですね。食事はどう? 自分で用意して?」(私)

「はい、半分しか食べられてないけど」(患者)

 余命を宣告されてもなお、こうして気丈にお話しする患者さんの願いは、ただひとつ。大好きな家族である、愛する猫たちに見守られながら自宅で最期を迎えたいということでした。

「安心してください。人生最後までお家で過ごすことができますから」

 そんな私の言葉に対し、浮かべられた安堵の表情が非常に印象的でした。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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