科学が証明!ストレス解消法

「怒り」は相手のモチベーションを下げ本人の血圧を上昇させる

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「褒め上手」という言葉があるように、人間は褒められると気分が良くなる生き物です。

 たとえば、部下が期日までに資料を作成したとしましょう。その際に、「期日までに間に合ったな。ご苦労さま」と声をかける上司と、「よく間に合わせたな。昼休みもそこそこにして頑張っていたもんな。また何かある際は期待しているぞ」と声をかける上司とでは、部下が抱く印象は異なるはずです。

 前者は、事実に対してのみ感想を述べていますが、後者は部下の心情をくみ取った上で感想を述べています。褒めるというアクションは、こうした心情に寄り添って声を掛けるとより効果的です。そもそも、褒めることは、他者のやる気を促進させます。

 ノースカロライナ大学のハンコックらが行った実験(2000年)では、褒めることでメンバーのモチベーションが向上したと報告されています。ハンコックは、被験者を2つのグループに分け、「リーダーシップトレーニング」と称した実験を行いました。

 内容は、2つのグループに同じトレーニングをしてもらい、その上でトレーナーが声を掛けるというものです。グループAの被験者たちには積極的に褒める言葉を発した一方で、グループBに対しては一切褒めなかったそうです。

 トレーニング終了後、被験者に「自宅で好きなだけやってください」と伝えた上で、課題を与えたのですが、たくさん褒められたグループAは、自宅で平均46.8分ほど課題に取り組んだといいます。半面、まったく褒められなかったグループBは、平均34.7分ほどだったそうです。まさに、「褒め」で当事者のモチベーションが変化することが示された格好でしょう。

 対照的に、「怒る」というアクションは、どのような変化をもたらすでしょうか?

 怒られた人間は決して気分の良いものではありませんから、当然、モチベーションもテンションも下がってしまいます。

 それだけではありません。実は、怒る側にもデメリットがあるのです。

 皆さんも経験したことがあると思うのですが、最初は理性的に叱ろうとしていたのに次第に気持ちが高ぶってしまって、感情的になってしまう──。「叱る」つもりが「怒る」アクションへと変わってしまう、「怒りのエスカレーション」と呼ばれる現象です。

 アメリカのジョンズ・ホプキンス大学のエワートらの研究(1991年)では、10分間にわたって反発的なコミュニケーションを取らせたところ、怒っている人の血圧がどんどん上がっていきました。

 私たちは怒りを覚えると、神経伝達物質であるアドレナリンやノルアドレナリンが分泌されます。顔が赤くなったり、血圧が高くなったり、心臓の鼓動が速くなったりするのは、これらの神経物質によるものです。

 そして、怒りを抑えるのが前頭葉と呼ばれる脳の部位なのですが、前頭葉が働き出すのに4~6秒かかると言われています。ですから、アンガーマネジメントでは、怒りを覚えたら「6秒数えよう」などと言われているわけです。

 誰かを叱るときは冷静に。怒るだけでは、誰も得をしないのです。

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堀田秀吾

堀田秀吾

1968年生まれ。言語学や法学に加え、社会心理学、脳科学の分野にも明るく、多角的な研究を展開。著書に「図解ストレス解消大全」(SBクリエイティブ)など。

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