老親・家族 在宅での看取り方

「こうしてほしい」「あれが不満」はケアマネや訪問看護師に相談を

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 在宅医療は患者さんが中心の医療だといえます。それは入院とは違い、患者さん自身がご自宅でありのままの姿で過ごすことを目指すものだからです。私たちは、各患者さんやご家族が抱えるさまざまな価値観、思いを尊重し、寄り添い、具体的な要望があれば極力応えようと努めています。

 それでも、患者さんが何らかの不満を持つことはあります。

 例えば、患者さんの緊急度に応じ訪問診療の優先順位が変わったり、訪問ルートにより急な要請に即応できないといったことも現実にあります。訪問する医師や看護師との相性もあります。時にそれが患者さん側の我慢の許容量を超える場合もあるかもしれません。

 そんな時には遠慮せず身近なケアマネジャーさんや訪問看護師さん、さらには地域包括支援センターなどに相談することをおすすめします。患者さんやご家族が抱えている疑問や不満を少しでも解消できるかもしれません。

 実際、あるクリニックで在宅医療を始めたけど、途中で別の在宅医療へ切り替えたといったことも珍しいことではありません。

 私たちが関わった、息子さんと同居する90歳の女性もそうでした。腹部大動脈瘤の術後間もない方で、軽度の認知症、高血圧症、高コレステロール血症も患っていました。

 別のクリニックで自宅療養を行っていたのですが、ある日、容体が優れなくなり医師の要請を行ったところ、別の緊急を要する患者さんの対応で断られた経験から、これからの療養に不安を覚えるようになり、相談したケアマネジャーさんから私たちが紹介されたのでした。患者さん側が諦めず相談した結果、それを受けて横の連携がうまくつながった例といえるでしょう。

「食欲がなくて」(患者)

「下痢はありますか?」(私)

「それはないです。鼻水が少し」(患者)

「のどは痛い?」(私)

「痛くない」(患者)

 細かいことでも患者さんに話しかけながらコミュニケーションを取り、小さな不安を取り除くことから在宅医療が始まりました。

「ご飯はどうですか?」(私)

「昨日はいなり寿司と肉じゃがをちょっと。今日はまだ食べてないです」(患者)

「点滴しますか? ご飯は食べられそう? 難しいようなら点滴という方法もありますが」(私)

「水も飲めているし! いらない! 今なら食べられる……大丈夫」(患者)

 患者さんには食べる意欲がありました。そんな患者さんの生きる意思を一つ一つ確認するように、会話を重ねていくうち、今では信頼関係を築くことができました。

 自分にとって満足できる在宅医療と巡り合うということは、とても重要です。今回のケースとは逆に、私たちのクリニックが合わず別のところへ移られる患者さんもいるでしょう。患者さんやご家族が自分の価値観で選択できるのも、また在宅医療なのです。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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