日本人の平均寿命は男女ともに、ほぼ毎年最長を更新しています(2021年は新型コロナウイルスの影響で少し短くなりました)。もうひとつ、「健康寿命」という言葉があります。健康寿命は「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義され、平均寿命と異なり3年ごとの統計となっています。こちらも統計ごとに最長を更新しており(男性72.68歳、女性75.38歳)、WHO(世界保健機関)加盟国の中でも最長です。
こう書くと良いことのように見えるかもしれませんが、じつは大きな問題があります。それが平均寿命と健康寿命の乖離です。この乖離は男性で8~9年、女性で約12年あり、これがここ20年以上の間、まったく縮まっていないのです。今後、さらに進むと思われる超高齢社会に向けて、この乖離をいかに縮めるか。つまり元気な高齢者をいかに増やしていくかが医療面、財政面だけでなく、高齢者の生活の質の面でも極めて重要となってきます。
健康寿命は「栄養」「運動」「社会参加」の3本の柱で成り立っているといわれています。しっかり食べて、しっかり動いて、しっかり家族以外の人ともコミュニケーションを取りましょう、と言い換えるとイメージしやすいでしょうか。実際、テレビなどで取り上げられる長寿の方は、例外なくこの3本の柱がしっかりしています。そういった方を見て、「○歳なのにしっかり食べて、しっかり畑仕事もしていて、すごく元気だ」という印象を持たれた人も少なくないでしょう。
そういったことを踏まえて、健康寿命の柱としての「栄養」と聞くと何を思い浮かべるでしょうか。おそらくすべての人が胃ろうや点滴からの「栄養」ではなく、“食べる”ことによる「栄養」を思い浮かべるはずです。人生最期の瞬間までおいしいものを口から食べていたいというのは、多くの人の共通の希望だと思います。
“食べる”ためには、食べるための意欲(食欲)、食べ物を口に運び咀嚼する力(体力)、咀嚼した食べ物をのみ込む力(嚥下)が必要となります。これらの力は残念ながら加齢とともに低下していきますが、それは自然の摂理でもあり、ある程度は仕方ないことなのでしょう。加齢以外にも病気などさまざまな要因が“食べる”力が低下する原因になりますが、クスリの影響も十分、その原因になります。
前置きが長くなってしまいましたが、これから何回か「クスリと“食べる”の関係」について紹介します。ただ、実際にクスリの話をする前に、次回は普段当たり前に行っている“食べる”という行動について、少し詳しくお話しします。
高齢者の正しいクスリとの付き合い方