Dr.中川 がんサバイバーの知恵

長崎大病院で医療事故…「ロボット手術」の安全性と医療施設の選択基準

保険適用がなければ自費でロボット手術を選択することはリスクが大きい(C)PIXTA
保険適用がなければ自費でロボット手術を選択することはリスクが大きい(C)PIXTA

 長崎大学病院での医療事故が報じられました。報道によると、今年7月、県内の女性(当時54)が子宮体がんのため手術支援ロボット・ダビンチを使って子宮を全摘。8月1日に退院し3日後、下半身から大量出血し、出血性ショックで亡くなったそうです。

 その後、病院の解剖で患部近くの動脈に約2ミリの穴が開いていたことが判明。大量出血は、そこからとみられるため、大学側は「医療事故」と判断したといいます。

 このニュースを耳にすると、ロボットの影響を心配するかもしれませんが、過失を伴う「医療過誤」があったかどうかは今後の究明次第。大学は調査委員会を設置して、その究明に当たるとしています。

 一般にロボット手術は、体に開けた数カ所の穴から内視鏡や手術器具などを挿入。ここまでは従来の内視鏡手術と同じです。異なるのは執刀医の操作で、手術器具は手の動きに連動した4本のロボットアームに装着されていて、執刀医は離れた机から3D映像で術野を確認しながらアームを遠隔操作します。

 ロボット手術は細かい作業も可能で、毛筆で米粒に字を書くようなこともできます。熟練した医師は、「患者の体の中にいるようだ」と表現することも。それで、出血量や手術後の痛みを減らせるほか、入院期間の短縮もメリットです。

 がんの手術で最初にロボット手術が適応になったのは前立腺がんで、その後、ほとんどのがんに広がっています。ロボット導入施設では、手術の主流といっていいかもしれません。

 そんな状況での医療事故ですが、今回は推測ながら、ロボットが直接の原因とは考えにくい。逆にいうと今回のような大量出血は、人間が直接行う内視鏡手術でも開腹手術でも起こる可能性があります。

 メスで血管を傷つけたり、電気メスで血管にヤケドができたりすると、出血のリスクになります。そのリスクは、手術方法を問わずに生じる恐れがあり、残念ながらゼロにはできません。

 リスクを大きくする要因のひとつが手振れです。人間が直接執刀する場合は、手振れがそのまま手術器具に伝わりますが、ロボットには手振れ防止機能がついているため、ロボットの方が安全性が高いといえます。

 では、ロボットを選ぶか、人間による開腹や内視鏡を選ぶか。その見極めは、手術を受けるがんに対してロボット手術が保険適用があるかどうかです。保険適用アリなら、従来の手術に対する優位性が検証されているので、ロボットを選択してよいでしょう。保険適用がなければ、優位性が担保されておらず、自費でロボットを選択することはお勧めできません。

 ダビンチの価格は2億~3億円と高額で、導入して間もない医療機関では、コスト回収にロボット手術が勧められることがあるかもしれませんが、その施設でのロボット手術実績は少ない。導入直後の医療機関も避けるのが無難だと思います。

 外科手術では出血や感染などがリスクですが、放射線治療にはそのようなリスクがなく、治療効果は手術と同等。日本のがん治療は手術偏重傾向ですが、必ずしも手術、それも最新手術がいいとは限らないということです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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